2011(平成23)年度松山大学卒業式学長式辞
今年の冬は寒さが特に厳しく、東日本大震災によって全国的に迫られた節電からも、一層寒い冬であったと感じられたことでしょう。寒く感じられても、日差しは日々強くなり、着実に春が近づいて、いよいよ皆さんが学び舎から巣立つ日を迎えました。この巣立ちの記念すべき日に、多数のご来賓ならびに保護者の皆様のご臨席を賜り、平成23年度松山大学・大学院学位記・卒業証書・学位記授与式を盛大に挙行できますことは、本学の光栄とするところであり、教職員を代表して心から御礼申し上げます。
修了生および卒業生の皆さん、ご修了・ご卒業おめでとうございます。所定の課程を修めて、特に薬学部においては6年間の長期にわたる課程を修め、本日こうしてめでたくご修了、ご卒業の日を迎えられたことに対して、心からお慶び申し上げます。また、これまでの長い間養育し成長を見守ってこられた保護者の皆様におかれましても、本日の晴れ姿をご覧になって、さぞかしお喜びになり、安堵なされているものと拝察し、心からお慶び申し上げます。
さて、修了生および卒業生の皆さん、皆さんが入学した折にも説明しましたが、本日の卒業式においても松山大学の歴史と教学理念としての校訓「三実」すなわち「真実」、「実用」、「忠実」の精神について述べておきたいと思います。これは、皆さんが本学出身者として誇りを持ち、さらに校訓「三実」の精神を生かして実社会において大いに活躍していただきたいと願って行っているのです。本日もこの二点について、まずお話しておきたいと思います。
松山大学は大正12年〔1923年〕に開校した旧学制による松山高等商業学校がその始まりです。本校は、松山市出身で、日本初の工業用革ベルトの開発を遂げて製革業において成功し、大阪産業界の雄となり、世間からは「東洋の製革王」と呼ばれ、また、NHKのスペシャルドラマで注目された司馬遼太郎著「坂の上の雲」に登場する秋山好古と親交のあった新田長次郎〔雅号温山〕、そして、当時の松山市長であり、俳人正岡子規の叔父に当たる加藤恒忠〔雅号拓川〕、そして、教育家であり、山口高等中学校長、大阪高等商業学校長、北予中学〔現県立松山北高等学校〕校長になられた加藤彰廉らの協力によって設立されました。長次郎翁は、高等商業学校設立の提案に賛同し、学校の運営には自らは関わらないことを条件に、設立資金として巨額の私財を投じて、私立の高商としては全国で三番目となる松山高等商業学校を創設しました。また、本校以外にも明治44年(1911年)大阪市浪速区栄町に経済的に恵まれない子弟の教育のために有燐尋常小学校を設立し、学校運営経費ばかりか生徒の学用品や衣服等まで支給しながら約十年間経営した後、大阪市に寄贈されました。このように温山翁は製革業やその関連事業の成功を自分だけのものにするのではなく、教育や文化の発展のために還元され、広く社会貢献されました。現在、文京キャンパス内に、感謝の意を込めて三恩人としてそれぞれの胸像を設置しています。
松山高等商業学校は、昭和19年に松山経済専門学校と改称し、第二次世界大戦後の学制改革により昭和24年に商経学部[現、経済学部、経営学部]を開設して松山商科大学となり、その後、大学院経済学研究科、人文学部、大学院経営学研究科、法学部を順次開設して文系総合大学となり、平成元年〔1989年〕に校名を変更して現在の松山大学となりました。平成18年には五番目の学部である理系の薬学部と三番目の大学院である大学院社会学研究科を開設して、本学は名実共に総合大学となりました。さらに平成19年には、四番目の大学院である大学院言語コミュニケーション研究科を開設して、教育研究体制をさらに充実させました。そして、薬学部設置以来6年が経過し、今日、めでたく薬学部第一期生を送り出すことになり、薬学部設置に係わったものの一人として感慨無量です。
松山大学の教学理念は、初代校長加藤彰廉が創唱し、第三代校長田中忠夫によってその意義が確立された「真実」「実用」「忠実」の三つの実を持った校訓「三実」の精神です。真実とは「真理に対するまことである。皮相な現象に惑溺しないで進んでその奥に真理を探り、枯死した既成知識に安住しないでたゆまず自ら真知を求める態度である。」と、実用とは「用に対するまことである。真理を真理のままに終わらせないで、必ずこれを生活の中に生かし社会に奉仕する積極進取の実践的態度である。」と、忠実とは、「人に対するまことである。人のために図っては己を虚うし、人と交わりを結んでは終生操を変えず、自分の言行に対してはどこまでも責任をとらんとする態度である。」と説明されています。この校訓「三実」の精神は次のように解釈できます。
『真実』および『実用』によって知育における指針を示して、教育研究においては真理を探求することはもちろんのこと、その真理を日々の生活や仕事の中に応用できるものにすることが重要であることを説いています。すなわち、教育研究活動は実学志向で行なわれるべきであると考えられています。
『忠実』によって徳育(道徳教育)における指針を示し、人に対しては誠実でなければならないこと、自分の言動については責任を持つことが大切であることを説き、対人関係のあり方、ないしは社会の一員としてとるべき態度を説いています。『忠実』の精神に基づいて行動すれば自ずと信用・信頼関係が生まれ、特に組織活動においては、信用・信頼関係があれば大いに能力を発揮できます。それゆえ『忠実』の精神は、組織の一員として、さらにはリーダーとして活躍するための必要条件であり、人間関係を大切にして信用・信頼される人格になることが重要であることを説いた人格形成のための精神です。
このように校訓「三実」の精神の解釈から分かるように、本学の教育の目的は、今日でいう「人間力」の養成にあるのです。近年、よく「人間力」養成や「社会人基礎力」養成の必要性が叫ばれ、キャリア教育が行われることになりましたが、本学は創立当初から一貫して「人間力」「生きる力」を育む教育を実施してきたのです。
本年は、いよいよ創立90年目になり、来年の10月22日には90周年記念式典を挙行する予定としておりますが、これまでに社会に送り出した卒業生は6万6千人を超え、特に経済界を中心に、全国的に活躍し、高い評価を得てきました。これも卒業生の皆さんが、校訓「三実」の精神を大切にして活躍してこられた結果であり、これが本学の伝統になっていると確信しています。卒業生の皆さんは、これまで松山大学で養成され身に付けた「人間力」で、実社会で先輩たちに続いて大いに活躍してください。
皆さんは、政治も経済も非常に不安定な中で教育を受け、東日本大震災後の混乱した状況の中で就職活動をしなければならないという苦しい状況に置かれてしまいました。この一年間で自然災害への意識は一変したことでしょう。東日本大震災を他人事とせず、今後も自然災害は必ずあるものと想定してそれに備え、校訓「三実」の精神で困難を乗り越えてください。夢があればどんな困難にも耐え、どんな努力もいとわないでしょう。「意志あるところ道あり」の精神で自らの人生を拓き、困難を乗り越えて、夢を実現できるよう努力してください。
夢の実現と言えば、本年度においても、嬉しいニュースがいくつかありました。愛媛県職員上級職として薬学部生5名を含む12名が採用決定、大学院生が公認会計士試験に合格、司法試験にも過年度卒業生が前年に続き合格するなど、これまでの勉学の成果をあげることができました。また、サークル活動においても本年も四国インカレでの男女アベック総合優勝、ボート部の日本インカレ・シングルスカルでの優勝などの活躍が見られましたし、創部4年目の女子駅伝部が第29回全日本大学女子駅伝対校選手権大会で5位に入賞し、二年連続でシード権を獲得しました。このように文武両面においてすばらしい成果をあげることができています。これこそ皆さんが目標・目的を持って努力すれば成果を挙げることができる証ですから、皆さんの新たな旅立ちに際して、大志を抱き、自信を持って実社会で活躍していただきますよう心から希望します。また、まだ結果は出ていませんが、3月3日、4日の両日に薬剤師国家試験が実施されました。受験した薬学部一期生の皆さんが合格して、皆さんや薬学部関係者の皆さん、さらには学外の実務実習でご指導いただいた諸先生のこれまでのご努力やご苦労が報われますよう心より祈念しております。
皆さんご承知の通り大学をとりまく環境は年々厳しくなっていますが、皆さんが活躍する実社会の環境も、少子高齢化、円高による産業の空洞化、経済のグローバル化、温暖化や東日本大震災のような自然災害の影響によって益々厳しくなるものと思われます。けれども皆さんはこれまでに養成してきた人間力、生きる力をもって将来の難題を乗り越えて、たくましく活躍してください。年月の経過とともに変化する環境を的確に把握し、この環境変化に適時に適応しながら社会のために貢献してください。
今や大学は財務情報ばかりか教育情報の開示も求められ、財務力、教育力、就職力などによって総合評価される時代となりました。皆さんが卒業生として実社会で大いに活躍することによって、大学の評価は大いに高まります。社会人として思う存分ご活躍いただいて、大学発展のためにもご支援いただけることを期待します。特に薬学部の卒業生の皆さんはこれまでにはない新戦力であり、皆さんの活躍が薬学部の将来を左右するといっても過言ではありませんから、一騎当千のご活躍を期待しております。これから皆さんは卒業と同時に、卒業生・修了生によって組織される「温山会」の会員となります。温山会は、北は北海道から南は九州まで全国的に組織され、活発に活動しています。皆さんも温山会の一員として就職先の地域にある温山会支部総会に出席して親睦を深め、人間関係の充実を図って大いにご活躍ください。
最後になりましたが、皆さんが夢や希望を持って、今後も地域・社会の発展ために、さらに世界の発展のため、益々ご健勝でご活躍いただきますよう祈念して、式辞といたします。
| 2012(平成24)年3月19日
松山大学学長 森本 三義 |