学生懸賞論文集第37号2019(令和元)年度
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4 最近の政府の対応として、第196回国会において「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(以下、特別措置法)」を成立させた。この法律では、「所有者の探索を合理化する仕組み」、「所有者不明土地を適切に管理する仕組み」、「所有者不明土地の利用を円滑化する仕組み」が主な内容となっている。 1点目に「所有者の探索を合理化する仕組み」では、固定資産課税台帳や地籍調査票等の所有者の探索に必要な情報を親族等までの範囲に限定して行政が利用できるように制度化された。また、登記官が登記名義人と成り得る者を探索した上で「長期相続登記等未了土地」として登記簿に記録するとともに名義人と成り得る者に対して相続登記等の申請を促す仕組みを構築した。 2点目に「所有者不明土地を適切に管理する仕組み」では、所有者不明土地の管理のために特に必要があると認める場合に国の行政機関の長や地方公共団体の長が財産管理人の選任を家庭裁判所へ請求することが可能になった。 3点目に「所有者不明土地の利用を円滑化する仕組み」では、所有者不明土地を収用適格事業のために利用する場合、公益性等についての事業認定を受けた後、収用委員会の採決が必要であった従来の土地収用法に代わり、収用委員会又は各都道府県知事どちらかの採決をもって手続きを経ずに土地を取得できるようになった。また、地域福祉増進事業として、福祉や利便性について公益的な事業のために一定期間(最大10年間)の利用権を設定し、所有者に土地の受け渡しを要求された場合に、その土地の原状回復を行い返還する。所有者から異議申し立てがない場合は利用権の期間延長ができるようになった。 この特別措置法では事後的な対応を目的としている。これにより、すでに発生してしまった土地の管理方法や利用方法、探索の合理化などを容易に行うことができるようになった。しかし、事後的対応では所有者不明土地の発生を未然に防ぐことができない。今後、所有者不明土地を解消していく上で事前的対応を検討していく必要がある。 事前的対応として容易に考えられるものが、土地所有権の放棄と土地登記の義務化である。前者の土地所有権の放棄は法律上認められていない。もし、放棄を認めるとするならば、所有者が存在しない土地の扱いをどのようにするのかという新しい問題が発生するため、所有権の放棄は現実的ではない対策であ学生懸賞論文集第37号

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