学生懸賞論文集第37号2019(令和元)年度
9/159

2 現在、「不動産登記簿等の公簿情報等により調査してもなお所有者が判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地」、いわゆる所有者不明土地が増加してきているとの指摘がなされている。この所有者不明土地が問題となったのは、日本の社会的・文化的バックグラウンドが大きく影響していると考えられる。 丹上(2018)は日本では地域社会の中で土地の所有権は相互認識されていたため、土地の登記を厳密にしなくても、所有者不明土地が大きな問題となることはなかったと指摘している。一方で、近年では、地域社会の希薄化や東京への一極集中などによる世帯の核家族化、そして、人々の著しい移動の増加などによって、その地域での相互認識が機能しにくい状況になっている。例えば、地方部で育った、兄弟のいない人が東京で働いている際に、その人の両親が他界した場合に、円滑な土地相続がなされないようなケースもあるかもしれない。 一方で、所有者不明土地は東日本大震災の際に大きな問題であると認識されるようになった。富田(2017)によると(以下引用)「東日本大震災の後、津波被害者の高台移転のために市町村にて土地を取得しようにも、土地の登記がなされないまま相続が繰り返されている土地が数多く存在していたため、所有者を把握するのに大変な時間、手間がかかった」(引用終わり)とあるように、所有者不明土地が大規模災害の復興事業の妨げになったことが示されている。今後、南海トラフ地震が予想されているうえ、2019年にも大型の台風・豪雨によって大きな被害を被った。そのため、日本において所有者不明土地の解消は防災・復興の点からも必要であると考える。そこで、本稿では所有者不明土地を発生させないための事前的アプローチを模索・提案していく。学生懸賞論文集第37号1 はじめに

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る