松山大学(学生懸賞論文集)第38号
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154.3.人口への影響 人口への影響を検証したモデル(3)の推定結果では、医療費無償化のパラメータはどれも統計的に有意にならなかった。つまり、医療費の無償化は自治体の人口の増加要因にはなっていないことを意味する。この結果は、4.1と4.2における人口の流出と流入への影響からある程度説明できる。それは、医療費無償化は人口流出を抑制する効果があるが、反対に人口の流入を減少させてしまう効果も働いてしまったため(推定パラメータの大きさも、ほぼ同じような大きさ)、これらが互いに人口への影響を相殺してしまい、人口の増加をもたらさなかったと予想される。4.4.出生率への影響 医療費助成制度は、子育て世帯の負担を減らし、安心して子どもを育てられる環境の一部として機能している可能性が高い。そのため、医療費助成制度を導入した自治体では、子どもがより多く育つと考えられる。このことを検証するため、モデル(4)では、出生率を医療費無償化に回帰して分析を行った。推定結果は、表3に記載のとおりである。 この結果より、医療費無償化のうち、通院を対象とした小学校卒業までの制度を導入している自治体において、出生率に与える影響がプラスで有意であった。これにより、医療費無償化は、導入した自治体における出生率を増加させる要因となっていることが分かる。一方で、中学校卒業までのパラメータはプラスであるが有意ではなかった。この原因については明確ではないが、出産を考える世帯にとっては、無償化があることが重要であって、12年と15年では、それほど大きな差であると考えていないのかもしれない。 表3の結果は、無償化の制度が自治体にとって費用のかかる制度であるのに導入している地域から、他の医療費無償化導入地域への移住のインセンティブとはならなくなってしまったことが考えられる。そのため、4.1で明らかになったように、医療費無償化制度は、自地域からの人口流出が抑えられるようになった一方で、(すでに無償化を導入している)他地域からの流入を減らしてしまったと予想される。子ども医療費無償化は少子化の進行を止めることができるのか

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