松山大学(学生懸賞論文集)第38号
25/93

18足していることが考えられる。それぞれのモデルの定数項が1%水準で有意であることも、説明要因の不足を意味している。特に出生率については、婚姻率や教育環境、子育て環境、自治体の政策など、本研究ではデータに含まれていない要因が多く存在すると予想される。各自治体について、これらの要因を詳細に調べてデータ化して含めることで、より精度の高い分析を行うことができるだろう。 4つ目は、医療費無償化の人口への影響をより詳細に分析するためには、人口の流出入において、どこの自治体に流出したか、どこの自治体から流入したかの詳細な移動データが必要である。都道府県単位ではこのような詳細な移動データは公開されているが、自治体単位でのデータの公開は現在のところ行われていない。これらの詳細な移動データがあれば、医療費無償化の導入地域と未導入地域から、どれだけ流入したか、もしくはそれらの地域に流出したかが把握できるため、無償化制度の影響をより詳細に分析可能となる。 本研究における以上の4つの課題は、現時点では解決は難しいが、将来的にはいくつかは解決可能だと予想される。これらは今後の研究の課題とする。学生懸賞論文集第38号第5章 まとめ 少子化による人口減少問題は、いまや日本の喫緊の課題である。本稿では、医療費助成制度がこの課題に対する政策の1つとなり得るかどうかに着目した。このような検証は、先行研究において、地域単位では存在していたが、全国を対象にした研究はなかった。そのため、全国の自治体データを対象に、医療費助成制度の導入前後で人口や出生率に与える影響を検証したものは、本稿が初めてである。 本稿では、全国の688の自治体を対象にしている。各自治体の医療費助成制度の導入時期を調査して、導入がほとんどされていない2009年と、導入が進んだ後の2019年の2地点におけるパネルデータを用いて分析を行った。その際、各市町村における所得水準や産業、病院数、学校数などといった人口増加に影響を与える要素をコントロールした。 実証分析の結果、医療費無償化制度の実施により、助成制度の未実施地域へ

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る