松山大学(学生懸賞論文集)第38号
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19の人口流出抑制につながるという結果が得られた。しかし一方で、他地域からの人口流入も抑制されていることも明らかになった。流入が減少した理由として、医療費無償化の急速な広まりにより、すでに無償化制度が導入されている地域間同士では、移住のインセンティブとなりにくい状況になっていることが考えられる。また、自治体の総人口に対しても、医療費助成制度は統計的に有意な影響を与えなかった。これは上記にもある人口の流出入の結果から、自治体間の移動人口が相殺された可能性が高い。 出生率に対しては、小学校卒業までを対象とする通院の医療費無償化を導入している地域で、統計的に有意に出生率を増加させる結果となった。これにより、医療費無償化制度の導入は、その地域での出生率を増加させる要因となるため、将来の人口増加を促進するための対策の1つになり得ると言える。自治体はこの10年間で、医療費無償化制度の拡充を競うように推し進めてきた。本稿の結果は、今後も医療費無償化制度の拡大を継続していくべきであることを推奨する。特に、図2で示したように、医療費無償化を、小学校卒業までを対象に導入している地域が全国で半数ほどしかないことから、少子化対策も兼ねて小学校卒業までを対象とした無償化の完全導入を目指していく必要がある。 最後に、本稿の課題について述べる。本稿における最大の問題点は正確なデータ入手が困難なことであった。特に医療費無償化の開始年は各自治体により異なり、明確に公表していない自治体も少なくなかった。また、人口の流出入の状況を調べるにあたって、どの自治体へ流出し、どこの自治体から流入したのかという詳細なデータの整備が進んでいない。本稿では、医療費助成制度がまだほとんど導入されていなかった2009年と、多くの自治体が導入済みであった2019年の2時点のパネルデータで分析を行ったが、今後データの整備が進んだ場合、改めてより詳細な分析を行う予定である。子ども医療費無償化は少子化の進行を止めることができるのか参考文献・ 足立泰美、齋藤仁、「乳幼児医療費助成制度におけるヤードスティック競争」、2016、季刊社会保障研究,国立社会保障・人口問題研究所、pp.371、376-378。

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