松山大学(学生懸賞論文集)第38号
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22 2.論証内容 直感的には医療費助成制度があれば、出生率の向上および人口流出入の改善が達成できると思われる。しかし、この金銭的インセンティブが「理論的・経済学的にそれらに影響を与える説明」がされていない。人々の金銭的余力・所得水準や貯蓄と出生が相関している理論的理由を簡単に説明してほしい。また、人口流出、人口流入、人口を分析対象としたときの分析枠組み(この分析対象の言葉の意味する範囲)の曖昧さが残る。分析では大都市を省いているようだが、これらの手続きはなにか先行研究を参考に行ったことであるのだろうか。結論の一般化は難しいと言える。 3.論証水準 データを収集する労力が多大であったと推察される。一方で、2009年と2019年の2年分のデータということで、2つの観測不可能な個別効果(u_iとv_i)の識別ができておらず、固定効果モデルが推定できていないと思われる。厳密なパネル分析ができないことから、もっと単純な分析やたとえば、パス解析などで人口流出、人口流入の一連の流れを追うなど、また違う分析手法でオリジナリティを出すことも可能ではないだろうか。また、医療費助成制度は人口の「純流入の増加」をもたらすと予想される。しかし、分析では流出と流入をそれぞれ分けている(モデル(1)と(2))ため、純流入への影響は分析できていない。また、人口を分析対象とした場合は、純流入に加えて、出生数と死亡数が含まれてしまうため、人口の分析でも純流入を捉えることができていない。そのため、モデル(1)〜(3)と(4)とではやや異なる結果となったのではないだろうか。C:総括 学生の論文としては相当に高水準にまとまった論文である。第一に、論文のトピックの重要度が極めて高い点であり、読者の関心は高いと思われる。第二に、文章表現が推敲されている。一文一文の読みやすさだけではなく、節立て、パラグラフの繫がりも適切に確保されている。第三に、データ収集を含めて、データ分析も学生としては難しいパネル分析にも挑戦している。学生懸賞論文集第38号

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