松山大学(学生懸賞論文集)第38号
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50のではないか」という仮説を立て、独自のアンケートデータを用いた回帰分析によりその仮説の検証を試みている。その検証は「もし水道水が飲めなくなったとしたら、現在の水質に戻すために月いくらまで支払えるか」というWTP(支払意思額)を被説明変数とし、説明変数には性別・年齢・住まい・水道代の把握・水道代に対する意識・水道水を飲む頻度を設定した回帰分析により行われている。分析の結果、上記の仮説は成り立たないという結論が導かれている。 しかし、(「3.論証水準」で述べる)アンケート設計の不備や計量分析の手続き上の問題から上記の仮説の論証が十分に行われているとは言い難い。また、仮説の導出に関わる「水道水の消費頻度」や「水質基準の厳格化」については、その「事実」についてのより正確・詳細な言及が欲しいと感じた。 具体的には、「水道水を飲む頻度」が少ない要因として、ミネラルウォーターの消費量の増加やウォーターサーバーの普及が挙げられているが、ミネラルウォーターやウォーターサーバーの具体的な消費量・普及度の推移をデータで示し考察してほしかった。また27〜29ページにかけて政府が目指す水道の理想像や、これまでの水質基準の変遷が記述されているが、単に水質基準の変遷を記述するだけでなく、なぜ国際的に見ても厳格なまでの水質基準の設定が行われてきたのか、その背景・理由についての考察が欲しかった。また当該部分については出典が十分に明記されていないことも若干気になった。 また、著者たちの回帰分析の結果は、あくまで「水道水を飲む頻度」が「WTP」に影響しなかったことを示したもので、そこから「水道水の質を下げるべきではない」という結論には飛躍がある。もし仮説を検証したいのであれば、少なくとも以下の2点を行うべきだろう。・ 水道水の質に関する認識を変数に含める(飲まない理由を特定しておく必要がある) →  そもそも水道水を飲まない人は、今の水道水の水準にも不安を感じているのではないか。おそらく、著者たちが指摘しているように、水学生懸賞論文集第38号

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