松山大学(学生懸賞論文集)第39号
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学生懸賞論文集第39号98 「日本における柔軟な働き方の現状」では、日本で柔軟な働き方がどの程度普及しているのか、どのような属性の人や、どのような企業に勤める人が柔軟な働き方をしているのかについて、個人を対象に実施された調査(2017年)が紹介されている。この調査では、急な残業の有無や頻度などを指す「スケジュールの不確実性」や、「テレワークの実施状況」について、就労者6856人から回答を得ている。調査の結果より、スケジュールの不確実性については、50歳以上かつ、非正社員かつ、週労働時間の短い人ほど、急な残業の頻度が少ない傾向があることがわかっている。また、テレワークを実施している人は、回答した全就労者のうち8%であり、テレワークを希望していても実際にテレワークを実施できている人は少数であることがわかっている。この章では、大都市圏の大企業に勤める労働者は、急な残業を受け入れる働き方をするが、フレックスタイムやテレワークなどの柔軟な働き方をする余地があることが述べられている。(83-84頁) 「柔軟な働き方と生産性-生産性と賃金の均衡」では、海外の論文と日本のフレックスタイムやテレワークなどの働き方の比較や、インタビュー調査を行っている。調査の結果より、働く時間や場所の柔軟化が生産性を高めることは、一部の労働者にとって当てはまる可能性があることがわかっている。また、柔軟な働き方が生産性を高める効果を持つということは、これまでの実証研究から根拠が乏しい。このことは、従業員にとってのアメニティの向上に繋がる可能性が高い。この章では、柔軟な働き方は、賃金以外の面での処遇改善に繋がると理解するべきであると述べられている。(84-86頁) 「柔軟な働き方と補償賃金」では、海外の研究を用いながら、補償賃金について議論している。前述より、賃金よりも働き方のアメニティを重視する労働者が増加すると、賃金の上昇率が抑制される可能性があることがわかっている。しかし、これは労働者の選好を反映したものである。この章では、前述を理由として、向上の対価として賃金上昇率が鈍化することは、労働者の経済厚生を低下させないということが述べられている。(86-89頁) 最後に、柔軟な働き方と賃金の関係について、2つの視点から森川(2020)の考えをまとめる。

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