松山大学(学生懸賞論文集)第39号
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地域再生プラットフォーム-制度設計と政策立案-592.地域再生の展開 -先行研究- 近年の地域再生論の展開の中で影響を与えたのは、「地方消滅論」である。これは、2014年日本創生会議制作の報告「成長を続ける22世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」(通称増田レポート)を始めとし、増田寛也(2014)『地方消滅』の内容のことを指す。増田レポートでは、2040年に若年女性が50%以上減少する市町村を独自の方法で予測し、その中で人口1万人以下と予測した896市町村を消滅可能性都市として名指しで発表した。また、増田(2014)は人口減少原因を出生率が全国最低の東京に若者が集まる、「東京一極集中」にあるとしている。地方からの人口流出を食い止めるための策として、人口ダムの形成などを含むいくつかの提言をしている。人口ダムは「『若者に魅力のある地方中核都市』を軸とした『新たな集積構造』の構築である(増田, 2014, p.47-48)」と説明されている。増田レポートや地方消滅論が各所に与えた衝撃とショックは、市町村や国が人口減少問題に本腰を入れて取り組む大きな契機になったといえる。 しかし、地方消滅論の提唱に含まれるある種の「選択と集中」に対する批判は多い。 山下(2014)は、増田レポート「選択と集中」を批判しつつ、増田レポートが市町村やその住民に与えたショックが地方の「諦め」を誘発しているとも指摘した。また、「選択と集中」に対抗するには、国民が多様性を認め自立・民主主義を尊重(自治)した上で地域再生や人口減少問題に取り組むことが必要だと述べている。また、問題に取り組む方向性として、ふるさと回帰や二カ所居住・多地域所属など新たな住民の形の検討をしている。 小田切(2014)は、増田レポートにおいて、特に地方消滅の可能性が高いとされた農山村地域の現状を分析した。農山村の現状について、高度成長期以来、人・土地・むらの3つの空洞化が生じたが、大多数の農山村は現在に至るまで維持されており、それは、地域に住み続ける強い意志で支えられていると述べている。一方、そういった意志が急速に諦めに転化してしまう自然災害などを引き金とする臨界点があり、農山村集落は「強くて弱い(小田切、2014、p.42)」という両義性を持つと結論づけた。また、その両義性を補強する農山村の地域づくり事例とそうした取組みをサポートする政策の紹介をしている。

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