松山大学(学生懸賞論文集)第39号
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学生懸賞論文集第39号60そして、2010年代前後から活発化した、田園回帰を農山村移住という行動のみを指す狭い概念ではなく、「農山村に対して、国民が多様な関心を深めていくプロセスである(同上書、p.176)」と位置付けた。農山村移住における問題として仕事・住宅・コミュニティ(閉鎖的傾向)の3つを挙げ、移住の長期化のための政策的支援の必要性を説いている。 2010年前後からの田園回帰の潮流では、先述した小田切(2014)のように、単なる移住のみではなく、農村への関わり方に多様性が認められるようになった。こうした中で、高橋(2016)や指出(2016)により「関係人口」という概念がつくられた。また、田中(2017)や小田切(2018)によって「関係人口」の事例報告と学問的な視点からの整理が行われ「関係人口」に関する議論は高まりを見せた。 「関係人口」の概念的意味は、総務省HPによると、定住人口と観光客などの交流人口の中間の、地域に関心を持ち多様な形で関与する人口のことである。関係人口論では、段階的に地域との関係性を深め、最終的には移住・定住に至ることが想定されている。しかし、移住せずに地域内外を行き来する「風の人」や、ふるさと納税や定期的な観光・訪問なども関係人口に含まれる。また、過去の居住・滞在など地縁のある人や、地域にルーツを持つ血縁なども、関係人口になり得るとされている。このような関係人口論の発展を受けて、第2期「地方創生」を含む、各省の政策立案過程において関係人口が取り上げられるようになっている。 以上のように、「地方消滅論」に対抗する形で地方と地域再生に関する議論は高まりを見せ、2010年前後からの田園回帰と、その発展形ともいえる関係人口論への注目が集まっている。しかし、関係人口論は関係人口が段階を踏んで最終的には移住・定住することを想定しており、総人口減少と少子化が進行する中で人口増加に固執することには限界がある。関係人口の本来的な意味としての「地域とかかわりを持つこと」に重きを置き、それを、さらに発展させる形で地域再生を論じていく必要がある。

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