学生懸賞論文集 第40号
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するかという点は非常に興味深い。 2.論証内容(主張の妥当性や論理一貫性) 仮説を検証するための分析自体は妥当な手法に基づいて行われており、それを実現するための調査やデータ処理等については高く評価されるべきであると考える。しかし、仮説の設定や結論の導出に関してはいくつかの疑問点が存在する。第一に、冒頭では西日本豪雨を受けた災害への意識変化を取り上げ、この意識変化が地価に与える影響についての問題提起をおこなっているが、それであるならば本研究は地価自体ではなく意識変化を受けて発生する地価の変化に着目すべきではないかと考える。 第二に、4章では国土交通省の公示地価データから愛媛県下の災害を想起させる地名についての分析を行っており、結果として「水」の地名に有意に地価を減少させる効果があると結論付けているが、この点にも疑問が存在する。こちらで確認した国土交通省の公示地価データにおいて、愛媛県下で「水」を含んだ地名が確認できた地点は松山市白水台、新居浜市横水町、新居浜市若水町の3か所のみである。松山市白水台は奥道後に開発されたニュータウンであり、市街地と比較して地価は著しく低い。また新居浜市若水町は市沿岸部の工業地帯に隣接した地域で住宅需要が低い可能性が高い。これらの地区には水害を発生させる河川は隣接しておらず、人々が「水」という文字から水災害を想起し、それを忌避した結果として地価が低下をしたとは考え難い。水害との関係を持つ可能性が考えられるのは、二級河川東川に隣接している横水町のみであろう。これらの理由から、「水」の地名が地価に負の影響を与えているという分析結果は疑似相関の可能性を否定できないと考える。 3.論証水準(専門的知識の水準や説明の深み) 分析手法として採用しているヘドニック価格法やStepwise法についての説明については必要な水準を満たしており、知識も十分に深まっているように思われる。前述の通り愛媛県内の公示地価データで「水」という地名を持つ地区は3か所(県内の大字・町名全体では11か所)のみであるため、統計分析以外のアプローチがなされるとより良かったが、分析自体は十分な水準で行われていると言える。災害を連想?~地名が地価に与える影響~23

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