B:論文の内容 1.テーマの設定(問題意識の独自性・妥当性) 災害の中でも、特に水災害に着目し、水災害を連想させる文字が含まれる地名が地価にどのような影響を与えるのかというテーマは、ユニークな発想に基づく独自性の高いテーマである。ヘドニック価格法を用いた先行研究の整理では、多様な要素が地価に影響を与えるが、災害に関する要素が与える影響は先行研究によって実証結果は異なるものの、地名に着目した研究は少ないことから、先行研究との相違点も明確に提示できている。 2.論証内容(主張の妥当性や論理一貫性) 「地名」が「災害」を連想させることによって需要を減少させ地価を引き下げるという仮説を論証する上で主張の妥当性や論理一貫性にほとんど問題はないものの、「災害」と「地価」の関係について多くの先行研究で論じられていることは提示されていた一方で本研究の主たる関心である「災害」と「地名」の関係性が十分に論じられていないという点において、主張の妥当性を担保する前提となる情報がやや不十分であった。災害に因んだ地名をつけることそのものが3割しかないと要約に書かれているように、人々は「地名」から「災害」のリスクを想像するのかどうかについての言及がなく、論理的飛躍のある部分がみられた。 3.論証水準(専門的知識の水準や説明の深み) 本研究は、論証の手法として、計量経済学のモデルに基づき、適切なデータによるヘドニック価格法とStepwise法を組み合わせた実証分析を実施している。どちらの手法も専門的知識を要する手法であり、客観性においても問題がない。加えて、本稿では第3章で住宅地を対象とした38地域の地方自治体のデータでは、主たる説明変数が有意でなかったことをふまえて、第4章では住宅地以外を含む愛媛県の地価データをもとにさらなる検討を行っている点でも深く検討されている。C:総括 本研究は、論文の体裁や文章表現などにおいては荒削りな側面が見られるものの、テーマと使用データのオリジナリティに加えて、丁寧な先行研究の災害を連想?~地名が地価に与える影響~25
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