学生懸賞論文集 第40号
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目を集めている健康ポイント事業について、成果につながる要因に焦点を当てて検討している。先行研究では健康ポイント事業への参加の促進が、事業自体の活性化につながる点が指摘されるが、執筆者らは「健康ポイント事業の本来の目的は、健康増進への効果を得ることであり、参加の促進が健康の増進につながるかについてはさらなる検討が必要である」(p.35)との認識に立った上で、健康増進の成果を示す指標として「歩数」に着目し、健康ポイント事業参加者の歩数を増加させる要因を独自のアンケート調査から分析し、その結果から新たな政策提言を行っている。 本論文のテーマ設定は、先行研究の問題点を克服するために独自のアンケート調査を設計するところから始まり、実際に街頭での声掛けやwebを通じたアンケート調査の実施、さらにその後は 多重回帰分析を行ない、分析結果を市役所の担当者へフィードバックするという、非常に手間のかかるプロセスを踏んでいる。論文の問題意識の独自性は高く、また非常に意欲的なものだと評価できる。しかしながら、本論文には後述するような問題点が含まれており、「健康ポイント事業に参加しても、すぐに健康への効果が測れるとは限らないこと、健康への効果は目に見えるものでないこと」(p.33)という、これまでの研究が抱えてきた問題点を本論文が克服できているとは言い難いと思われる。 2.論証内容(主張の妥当性や論理一貫性) 論証に関して最も問題があると感じたのは、本論文の課題が、健康増進の「成果を示す指標として歩数に着目し、健康ポイント事業参加者の歩数を増加させる要因を、独自のアンケート調査の結果をもとに分析する」(p.36)ことだと述べられているにもかかわらず、実際に事業に参加する住民の歩数をアンケートから把握しているわけではなく、課題の設定と分析内容に距離があると感じられた点である。住民へのアンケート自体が、健康ポイント事業に参加する者に限定されておらず、分析自体が健康ポイント事業への参加による健康増進の成果を測定するような設計になっていなかったのではないだろうか。 またアンケートの分析対象や回答率などのデータは示されているものの、質問の内容や回答者がどのように回答する形式になっているのかが全学生懸賞論文集第40号54

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