学生懸賞論文集 第40号
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く示されていない。そのため、図表5-1~図表5-4の値をどのように解釈すればよいのかが、不明である。さらに、重回帰分析の枠組みを説明する40ページには「公共交通インフラの整備」「健康増進インセンティブによる住民の行動変容促進」「ヘルスリテラシーとソーシャルキャピタルの醸成」という概念が唐突に現れ、逆に先行研究では検討されている「現金性を実感できるような報酬」(p.35)といった指標が回帰式に含まれていないなど、「成果を示す指標として」の「歩数」にどのような変数が影響を与え得るのか、十分な考察が行われているとは言えないように感じられた。 なお定性分析の部分は、松山市保健所担当者への定量的な分析結果の「報告」という性格が強く、分析が行われているとは言えないように感じた。 3.論証水準(専門的知識の水準や説明の深み) 論文の分析結果を、46ページから示される「公共施設を活用して住民が集まることができる場所を設け、住民同士の交流を促す新たな健康ポイントの仕組みを導入する」という具体的な政策提案につなげている点は高く評価したい。しかしながら、上述のような分析上の致命的欠陥により、本論文には政策提案の前提となる分析の厳密性が十分に担保されていないという問題点がある。データ分析の結果示される数字は、時に独り歩きすることがあり、分析者は分析上の問題点をわきまえた上でデータを扱う必要がある。その意味で、アンケートの実施方法の限界などからデータのサンプルに偏りがあることや、そもそも「健康」を測定すること自体に困難が伴うことなど、本論文の「おわりに」の部分で、今回の分析では検討できなかった課題・ 限界について触れられていなかったことはやや残念に感じられた。C:総括 課題の設定から先行研究の渉猟と整理、仮説の導出、アンケートの設計・分析、結果のフィードバックまで、論文の執筆に非常に多くの労力がかけら健康ポイント事業がもたらす健幸まちづくりの可能性-成果につながる要因の分析-55

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