学生懸賞論文集 第40号
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しかし、後述するように、実際のデータ・分析・論述は、このテーマを論証するのには十分でなかった。「『意欲的なテーマ』を不十分にしか論証できていない」論文と、「『小さな進歩』を明快に論証した」論文であれば、当然後者の方が高く評価できる。データや論述により「論証できる範囲」にテーマ・課題を再設定することも検討すべきであったと思われる。 2.論証内容(主張の妥当性や論理一貫性) まず、多くの自治体へのアンケート送付や、街頭でのアンケート調査、役所へのインタビュー調査など、積極的な活動を行っていることは非常に高く評価できる。 他方、「健康ポイント事業の健康増進という効果を促進する要因」を論証できているかといえば、残念ながら十分ではない。とりわけ、1 )住民アンケートの対象が、健康ポイント事業参加者に限定されていない点。2 )アンケートの質問票と回答の集計表を付録として添付すべきであった。目的変数である歩数や歩行意欲がどのように回答されたか、読者にとっては不明であるうえ、「A. 1.構成力」で述べたように、説明変数も唐突・説明不足であり、分析の説得力が大きく損なわれている。3 )先行研究(岡村など, 2017)で報酬の重要性が指摘されている、と述べていることを踏まえれば、ステップワイズ法の利用により、「景品」を十分検討しないまま切り捨てている点も疑問であった。この説明変数の絞り込みが望ましいものであったとしても、「報酬」あるいは「景品」について、一定の考察や説明を示すことは必要であったと思われる。 これらの問題点・疑問点が、論証の客観性・論理一貫性を損なっていると考える。 3.論証水準(専門的知識の水準や説明の深み) 上述したような諸点から、「健康ポイント事業の健康増進という効果を促進する要因」について、十分な論証と説明が行われているとは感じられなかった。また、46ページで展開される、回帰分析結果の考察と、定性分析に関する論述については、複数の資料や見解、情報、さらには批判的健康ポイント事業がもたらす健幸まちづくりの可能性-成果につながる要因の分析-57

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