83■■また、谷口意見は、昭和■■年決定について、「理由を示してはいないが、これらの大審院判例と同らかにされていない。ところで、下級審判例においては、昭和■■年決定の立場について考察の余地を与えるものがある■■。例えば、昭和■■年東京高裁判決は、「犯人が自ら犯した犯行につき隠避的行為をなす場合は犯罪を構成するものでないことは所論の如くであるが、他人が他人を教唆して自己を隠避させた場合は、これと趣を異にし、犯人隠避教唆罪が成立すること固より当然である。」とする理由として「斯かる教唆行為は自ら限度あるべき犯人の自己防禦行為としての放任行為の範囲を明らかに逸脱しているが故である。」と判示した。また、昭和■■年東京高裁判決は、「犯人自身の単なる隠避行為は人間の至情として法律の放任する防禦の自由に属するとしても、他人を教唆して自己を隠避させるに至つてはその濫用であつて防禦の自由の範囲を逸脱するものといわねばならないから、犯人隠避罪の教唆犯が成立すると解するのが相当である」と判示した。これらの判例には、昭和■年判決の引用はないものの、昭和■年判決と同様に「防御」の範囲を「逸脱」していることを理由として、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を肯定している。さらに、昭和■■年東京高裁判決は、昭和■年判決における「防御の濫用」に類似した理由を判示した上で、その根拠に昭和■■年決定を引用していることから、昭和■■年決定も昭和■年判決における「防御の自由・濫用」の理論を実質的に承継したと考えられる■■。したがって、最高裁判例は、今日に至るまで、昭和■年判決における「防御の濫用」を理由として、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を肯定していると位置付けることができると考えられる。犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否について、最高裁判例は「防御の自由・濫用」を理由として成立を肯定する立場に立ってきたことは前節のとおりである。しかしながら、過去を振り返ると、かつての最高裁判例には成立を否定する■名の裁判官の反対意見が存在しており、下級審判例でも成立を否定■■東京高判昭■■・■・■■下刑■巻■・■号■頁(以下、「昭和■■年東京高裁判決」という。)、東京高判昭■■・■■・■■刑月■巻■■・■■号■■■頁(以下、「昭和■■年東京高裁判決」という。)。一系列の思考に出たものと思われる。」として、昭和■年判決との関係性を指摘している。犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否に関する一考察−学説・判例における見解及び状況等の整理を中心として−第■節成立を否定する反対意見及び下級審判例
元のページ ../index.html#90