学生懸賞論文集 第42号
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86■■控訴審である大阪高判平■・■・■■高刑速(平■)■号■■■頁は、「犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は、情を知らない他人を利用して移動や宿泊の便宜を図るなどの単純な自己隠避行為の場合や、たまたま既に他人が身代わり犯人として立つ犯意を生じているのに乗じて、共同正犯の形態でその者に身代わり犯人として自首してもらうような場合と異なり、自ら積極的に他人に働き掛けて犯意を生じさせた上、犯人一人では不可能な身代わり犯人の自首という実効性の高い方法によって自己を隠避させようとするものである点で、本来の防御の域を著しく逸脱したものと言わざるを得ず、その他人について犯人隠避罪が成立する以上、これに対する教唆罪の成立を否定すべき理由はない。犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は、犯人隠避教唆罪に当たると解すべきである」として、平成■年大阪地裁判決の立場を批判し、従来の判例の立場を維持した。ける「防御の濫用」の根底には、共犯の処罰根拠論における責任共犯説と同様の立場があることになる。本判決は、このような責任共犯説を基盤として、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を否定する立場に対し、「しかし、他人を犯罪に巻き込むということは教唆犯に特有のものではなく、まして、他人を犯罪に巻き込むとの要素を考慮することが、犯罪の成立に直結するものでもない。」として、判例の立場を批判した。このような批判は、前述した谷口意見においても見られるところである。さらに、平成■年大阪地裁判決は、「犯人は、共同正犯という形態で他人を犯罪に巻き込むことができるが、他人を犯人隠避罪に巻き込んだとしても、正犯として処罰されることはないのであるから、犯人隠避罪の共同正犯としても処罰されることはないからである。」とした上で、「犯人は、他人を犯人隠避罪に巻き込んでも共同正犯として処罰されない以上、刑法六一条が教唆犯を正犯に準ずるとしているのであるから、より軽い関与形式である教唆犯としても処罰されないと解すべきなのである。」と結論付けたのである■■。平成■年大阪地裁判決は、「犯人自身の正犯(自己蔵匿・隠避)行為が不可罰であれば、共犯(自己蔵匿・隠避教唆)行為についても不可罰である」とする点において、谷口意見と一致している。しかし、谷口意見は、必要的共犯関係を根拠として、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を否定したのに対して、平成■年大阪地裁判決は、犯人に対する犯人蔵匿・隠避罪の共同正犯の成立を否定することによって、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を否定した点に相違がみられる。そして、このような共同正犯の成立を否定することによって教唆犯の成立も同時に否定するという見解は■■、学説において因果的共犯論を基調とした期待可能性の不存在の見解に近いと思われる■■。学生懸賞論文集第■■号

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