87■■平成■年京都家裁決定は、犯人と他人との犯人蔵匿・隠避罪の(共謀)共同正犯の成立を否定した下級審判例である。本決定は、自動車を運転中に交通事故を起こし業務上過失致死傷罪(刑法■■■条)及び道路交通法違反等の罪を犯した少年が、当該自動車を貸与した者に対し、「当該自動車が事故発生以前に窃取された」旨の虚偽の盗難届を警察者に提出させた事案である。平成■年京都家裁決定は、上記のような事案について「現行法上、自己隠避行為は不可罰であり、送致にかかる少年の自己隠避の教唆行為は、当裁判所の認定としては自己隠避の共謀行為であり、正犯としての行為ということになるから、結局少年には非行がないこととなる」として、少年に対し「非行事実なし」とした。■■なお、犯人に対する犯人蔵匿・隠避罪の共同正犯に関する学説の見解については、前章(第■章)第■節第■款及び前掲注■■を参照。また、平成■年大阪地裁判決を担当した大越裁判官も、共犯の処罰根拠論から犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否を検討されている(大越(■■■■)■■■頁)。大越裁判官は、自身の支持する修正惹起説ないし混合惹起説(大越裁判官は、「第三の惹起説」とされる。)の立場から(大越(■■■■)■■■頁、同■■■頁)、「犯人は犯人蔵匿・証憑湮滅を教唆した場合でも不可罰になる。自ら行ったときでも期待可能性がないとする以上、より軽い犯罪形式である教唆を行った場合でも、当然に期待可能性がないことになるからである。」とされている。もっとも、前掲注■■の立場をふまえれば、「修正惹起説の立場から、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を否定できるか」については、検討の余地があるように思われる。■■「法益侵害の高まり」については、前章(第■章)第■節第■款を参照。隠避教唆罪の成立を否定する見解を示した反対意見である。まず、山口意見は、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否における最高裁判例の立場について、「当審判例は、犯人が他人を教唆して、自らを蔵匿・隠避させた場合は、処罰を限定する上記立法政策の射程外であり、教唆犯として処罰の対象となるとしてきた。」とし、「それを支える根拠・理由として幾つかのことが指摘されている」とした。また、本意見は、その根拠・理由のひとつとして「犯人が一人で逃げ隠れするより、他人を巻き込んだ方が法益侵害性が高まるとの指摘がされることがある。」として、学説における「法益侵害の高まり」の見解を挙げた■■。本見解について、山口意見は、「このこと自体には理由があると考えられる」としながらも、「他人の関与により高められた法益侵害性は、教唆された正犯第■款山口意見山口意見は、谷口意見に続き最高裁判例において、犯人に対する犯人蔵匿・これに対して、昭和■■年東京高裁判決は、「被告人自身については自己を隠避させる行為は犯罪構成要件に該当せず可罰的でないのであるから」、他人「に対し自己を隠避させるよう教唆し」、他人と「共にその隠避行為を共同して実行したからといつて被告人について法律上犯人隠避罪の共同正犯の成立する余地はなく、かような場合には」他人「に対する関係で犯人隠避罪の教唆犯が成立するにとどまると解するのが相当である。」として、犯人と他人との犯人蔵匿・隠避罪の共同正犯の成立を否定した上で、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を肯定している。犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否に関する一考察−学説・判例における見解及び状況等の整理を中心として−
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