89の立場から否定説が必然的に導かれるか」については、今後さらなる検討が必要であると考えられる。本稿では、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否に関する学説・判例の整理をし、また、これらにおける各見解について若干の考察を行った。本章では、以上の学説・判例の整理の結果を簡潔に述べていくこととする。まず、学説の整理の結果、学説では、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否が古くから議論されてきたこと及び学説では、本問題が議論されるようになった当初から多様な見解が登場していたことを確認した。また、整理の結果、古くから存在した多様な見解は、その多くが、現在の研究者にも支持されていることが明らかとなった。そして、このような伝統的に主張されてきた見解については、共犯の処罰根拠論など、現在の研究者が新たな理由・根拠を付すことによって、各見解の妥当性を維持しようとしていることも確認した。つぎに、判例の整理の結果、最高裁判例は、昭和■年判決における「防御の自由・濫用」を理由として、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成立を肯定していること、最高裁判例が一貫して成立を肯定する一方で、反対意見や下級審判例において成立を否定することを確認した。また、「防御の自由・濫用」については、その内容・性質が必ずしも明らかになっていないことを確認した。さらに、成立を否定する反対意見及び下級審判例は、学説における否定説の各見解に類似した見解を採用していることが明らかとなった。さいごに、本稿において整理した学説・判例の各見解については、不明確な部分がわずかであるが存在していた(①期待可能性と共犯の処罰根拠論の関係、②犯人による自己蔵匿・隠避行為の法益侵害性、③犯人による犯人蔵匿教唆行為の必要的共犯性、④「防御の自由・濫用」の内容及び性質)。本稿における整理の結果、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否を研究するためには、これらを明確にする必要があると考えられるため、今後は、筆者としてもさらに考察を行っていきたい。なお、本稿では、犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否に関する学説・判例の整理と若干の考察に終始し、これらについての具犯人に対する犯人蔵匿・隠避教唆罪の成否に関する一考察−学説・判例における見解及び状況等の整理を中心として−第■章終わりに
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