Creation-163号
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大学が行う地域貢献には教育的な視点が必要不可欠 地域貢献は、現代の大学に与えられた大きな使命の一つ。それを実現するためのシステムとして機能しているのが、2008年10月に開設された「MSPO(松山大学・ソーシャル・パートナーシップ・オフィス)」です。ここが社会や産業機関からの共同事業依頼の窓口となっており、地域貢献をよりスムーズに行えるように様々な取り組みを行っています。こうした動きは今後もいっそう活性化していくでしょう。その中で、私たちが忘れてはならないのは「松山大学が果たす地域貢献の最たるものは優れた人材を地域に供給すること」であるという自覚。「それを果たすことこそが本学の存在意義である」と言っても過言ではありません。その基本を全うしつつ、自治体や産業界にも協力をしていくというスタンスを貫いていきたいと考えています。さらに、教育機関である大学が地域貢献を行う際には、必ず教育的な視点を持つべきだという考え方も肝要です。たとえば理系の学部では数年前から研究の成果を企業と連携して商品化する「大学発ベンチャー」が盛んになっています。しかし、これだけで完全な地域貢献だとは言えないのではないでしょうか。と言いますのも、この形においては象牙の塔の中で宝物を錬成して社会にプレゼントするというイメージが強く、この過程で「学生の成長が達成できたのかどうか」との視点が弱い。また学生と社会の間での「連携」がなし得るのかどうか疑問です。少なくとも、私が考えている形の連携ではない。 では、具体的にどのような社会貢献をするかを考えた時、まずは大学がユニバーサル化していることを自覚する必要があります。こうした情況下では、従来の「トーク&チョーク(黒板に書いて、本を読んで、レポート書かせる教育スタイル)」では社会に適用できる人間を育てることはかなり難しい。それを補うために地域貢献、社会との連携を活用していくと考えるのです。つまり、学生に社会にふれるチャンスを与えて頂き、様々な経験をさせて頂くということです。ですから地域貢献と言いつつも、地域に助けて頂いているんですね。その中で、たとえわずかでもいい、自治体や企業の側にもメリットを感じて頂けるように努めていきたいと考えています。一つ一つの取り組みを客観的に検証して次につなげる 最初に「地域貢献は大学に与えられたミッションである」と述べましたが、これをより良い方向へ進めていくためには「検証」が重要になってきます。自分たちの取り組みがどのように評価されたか、自分たちにどのような影響を与えたかを学生自身がしっかりと把握し、より良いスタイルを構築していく必要があるのです。これは一例ですが、2008年に愛媛朝日テレビ様から同社のイメージキャラクターの認知度アップに学生が協力させて頂いた際、参加した学生たちは非常に大きな手応えを感じることができました。一方で愛媛朝日テレビ様も「学生の存在が社内を活性化させた」とのお言葉を頂戴しました。こうした評価が次のプロジェクトにつながってきています。もちろん、成功例ばかりではありませんから、客観的に自分たちの取り組みを評価・検証する仕組も必要でしょうね。 私の理想は「地域貢献はこうあるべき」などと杓子定規にならずに、同時多発的に色々なプロジェクトが進行しているという状態。それこそがユニバーサル化が進んだ大学の新しい教育のカタチなのだと思っています。松山大学にとって最大の地域貢献は地域に役立つ人材を育成すること。そこに主眼を置きつつ自治体や産業界に協力したい。地域社会に貢献する“実践”松山大学副学長経済学部教授安田 俊一平成3年4月兵庫県立神戸商科大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学(経済学修士)。平成15年4月松山大学経済学部教授に、平成21年1月現職に就任。

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