Creation-164号
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 今回の提携協定は、主として経済学部が中心となった働きかけにより実現しました。日本の伝統的な大学教育の基本的パターンは、大講義室で講義を聴き、演習室で小集団(ゼミ)で討論するというスタイルが多く、キャンパス内で文献を中心にした勉強を行っています。しかしその中で、活字を読むことをあまり得意としない学生に勉強に興味を持ってもらうにはどうしたらいいかという問題もあります。その解決策の一つとして「現場に行って学ぶ」という方法が考えられます。理論に基づいて実験する、現場に行って地域を観察する、そういうことが近場でできる場所が内子町でした。 内子町は、いわゆるまちづくりで、全国的にも先進的な町として評価されています。まちづくり・地域づくりというものの多くは行政主導で行われていますが、内子町は住民主体にまで取り組みのレベルが進んでいます。20年ほど前から「知的農村塾」という自主的な学習会を組織し、日本の農村・農業がこのままでいいのかという問題意識を持ってまちづくりに取り組まれてきました。行政だけでなく地域の人が参加して取り組んでいるところが特徴で、内子町の職員も住民もまちづくりに対して非常に高い意識を持っています。 全国の大学にも自治体と提携し、いろんな形で地域の再生事業に学生が参加し、研究対象にしているケースがたくさんあります。大学は社会へ出る前の最後の教育機関ですから、自分で問題を発見して解決しようとする主体性を身に付けてもらわなければなりません。地域に行って〝ここはこう取り組んで成功している〞〝あるいはこんな問題を抱えているんだよ〞と問題を投げかける、そうすると学生は考え始めるのです。 教科書に書いてあることは現実社会を抽出した抽象的なことですので、それと現実の間に繋がりが出て来ないと学生にとって勉強は面白くない。地域で学ぶとそれが非常に繋がりやすいのです。我々研究する立場としては地域をどう再生するかは大きな問題で、日本の社会の問題が具体的にどういう形で地域に発現しているか、そして、それに対して地域がどう取り組んでいくかということを研究対象にできます。また、地域に若い学生が行くことでとにかく住民が〝元気になれる〞と思います。農山村には遊休化した公共施設がたくさんあり、そこを学生と教師の交流の場、あるいはゼミやスポーツの合宿などに使わせていただくことで地域全体が活性化していく。さらに可能であれば、学生が卒業論文の研究テーマとして地域が抱える問題を取りあげ、コミュニケーション能力やまとめる力を身につける機会になって欲しいと思います。 文系の大学で自治体との連携を教育プログラムに組み込もうとすると、一定の準備をして実際に実証していかないと、協定を結ぶだけに終ってしまう可能性があります。今回、内子町で一つのモデルを作って成果が確認されれば、周辺の町村とも協定を結ばせていただきたいと思っています。また、松山大学の学生の多くが地元に残りたいと希望してくれています。しかし、受け皿となる企業はそう多くないので、産業おこしも必要になってきます。この経験により、農山村で新しいコミュニティビジネスを起こせるような人材が育って欲しいとも思っています。(愛媛新聞記事)平成21年10月8日生きた社会に触れることで学生の知的関心を喚起し問題解決に主体的に取り組む力を育てます!松山大学の注目記事をチェック!!経済学部長鈴木 茂〈No.164〉 2010 Winter

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