Creation-166号
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 私の研究対象は国際通貨制度です。大学4年生の時アメリカに留学して、機会あってメキシコに旅行したときに途上国の現状を目の当たりにし、「先進国のすぐ隣りにあるというのに、何だ、このギャップは?」という衝撃を受けたことが研究のきっかけでした。もう一つ、指導教授から『戦間期の資本主義経済をしっかり学ぶことが肝要だ』というアドバイスをいただいたのも大きな理由でしたね。 アメリカ留学の影響もあって、大学院生のころは1920〜30年代のアメリカの金本位制という通貨制度が研究テーマでした。今日の通貨制度は管理通貨制度といって、通貨の発行量を人為的に決めなければなりません。しかし過剰に通貨が発行されるとインフレが発生するので、そうならないように金融政策が行われています。そのような通貨の本質と金融政策を戦間期のアメリカの通貨制度を通じて研究していました。 インフレについては1920年代のドイツがよく例にあげられますが、当時のドイツは敗戦の賠償金を短期間で払ってしまおうと安易に通貨を大量発行し、その結果マルクの価値が5年間で1兆分の1まで減価してしまいました。リンゴ一つを買うのにリヤカー一杯分の紙幣が必要だったと記録に残っています。通貨価値が下落するということは、我々が額に汗して働いて得た資産の価値が目減りするということ。通貨政策はやり方を誤まると、社会を混乱させてしまいます。このようなインフレが起きないように、通貨発行量を人為的に管理できない仕組みを考えてできたのが金本位制です。これは、中央銀行が中央銀行券と金の交換を保証し、銀行券の発行量は中央銀行が保有する金準備量に縛られるという制度です。金本位制であれば理論的にはインフレが起きないのです。 しかし、戦間期にこの制度は崩れ始め、J.M.ケインズは「人間の市場経済が金に縛られるような野蛮な制度は廃止すべき」と論陣を張ります。では本当に、金本位制度とはそんなに野蛮な制度なのか? 金本位制度を廃止して管理通貨になって、社会は良くなっていったのだろうか? 当時の私は、そんなことを考えて研究していました。 1995年に本学の長期研修制度でイギリスのケンブリッジ大学に1年間留学する機会に恵まれたとき、研究に一つの転機が訪れました。当時のイギリスは欧州の通貨統合に参加すべきか否かで、国を二分して政策論争が行われていました。自国の通貨発行権という国に最も重要な特権を捨ててまで欧州諸国が一つにまとまろうとする通貨統合、それに対するイギリスの政策を考えていくうちに、欧州諸国は何をグローバル資本主義の課題に対し、国際金融と国際通貨の側面からアプローチするEUの通貨統合、その複雑さを解きほぐす醍醐味社会を支える金融制度はどうあるべきなのか時代の潮流のもつ歴史的意味を見極めながら、EU通貨統合を考察。CREATION 〈No.166〉 2010 Summer3

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