Creation-166号
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【略 歴】1963年熊本県生まれ1981年大分大学経済学部経済学科入学1984年9月〜85年6月文部省国際交流制度により米国サンフランシスコ州立大学へ派遣留学1986年大分大学経済学部経済学科 卒業1988年大分大学大学院経済学研究科経済学専攻修士課程 修了1991年同志社大学大学院商学研究科商学専攻博士後期課程 中途退学 同年松山大学経済学部専任講師1995年8月〜96年9月英国ケンブリッジ大学客員研究員2000年松山大学経済学部教授2006年博士号取得(国際関係学、立命館大学)【専 門】国際経済学、国際金融論 【授業担当】国際経済論Ⅰ、国際経済論Ⅱ、国際金融論、EU経済論【学外役職】日本EU学会理事※EUVP…EuropeanUnionVisitorsProgramme.欧州委員会の主催する短期の研修制度。世界各国から研究者やジャーナリストなどを招待し、欧州委員会について勉強してもらう機会を提供している。経済学部教授 博士(国際関係学) 松浦一悦            Dr.MatsuuraKazuyoshi,Ph.D目的としてどこを目指しているのか、そのエネルギーは一体どこから来ているのか、そんな疑問から欧州の通貨統合そのものについて研究を始めたのです。 その後、1999年に欧州委員会のEUVP(※)に参加し、ベルギーのブリュッセルとイタリアのローマで勉強した2週間の経験が後の研究に大きく影響しました。毎日4〜5人の欧州委員会、欧州理事会、欧州議会や大学のエコノミストにインタビューし、自分の持っている疑問点について質問していきます。EUの基本的な仕組みや各国の利害調整をするための複雑な政策決定方式などを学ぶにつれ、EUの目指す方向性が解り、複雑だからこそ面白く感じてきたのです。 今27ヶ国がEUに参加していますが、それぞれ自国語を公用語としているから会議資料も20ヶ国語以上の翻訳がある。国民性も風土もまるで違う国々が、違いを認めながら協調しようとしていくプロセスに強い興味を持ちました。学会や研究会で報告を重ねるうちに、考えに整理がつき、成果がでてきました。2冊の著書はそれらをまとめたものですが、1冊目の本は欧州の周辺国の視点から通貨統合を考察したもの、2冊目は、ユーロを成長させてきた要因とは何か、またその発展に対してEU政策当局はどのような役割を果たしてきたのか、という課題について考察しています。 最近ギリシャに端を発する金融危機が取りざたされていますが、実は1冊目の本の1つの章に将来のギリシャ問題について論じています。その時の着眼点は間違っていなかったと改めて思っていますが、当時EUの中心国側の立場から通貨統合についてよく取りあげられていましたが、周辺国からのアプローチは珍しいものでした。もともと「生産力が違う国々が一つになるのは無理がある」とみんな思っていたのですが、例えば、イギリスを10とすればギリシャは6くらい国力に差があります。当然国際競争で負けるから経常収支は赤字になる。また、財政赤字が拡大し、それを賄うために国債を発行することによって貨幣価値が減価していく。「モノやサービスが生み出されて、それを仲介する手段が必要だから貨幣を発行する」というのが健全な市場ですが、労働の裏付けのない貨幣発行はインフレを引き起こします。ギリシャが火種EUの通貨統合政策についてまとめた著書では、現在問題となっているギリシャなど南欧周辺国に関わる経済不安についても予測・危惧されていた。2000年9月、ブリュッセルの欧州委員会にて。EUVPのプログラム・オーガナイザー、Jean-Claude Watry氏と。になってユーロに対する不信感が出てきてユーロ安になる、そうすると欧州に信用不安が生じ、実体経済に影響する。欧州向けのメーカーは輸出が減り、欧州で生産している外国企業の収益も減る。負の連鎖ですね。欧州の長い統合の歴史をみると、欧州全体で社会を支え合う考えから、決して周辺国を見放さないと思いますが、この危機をどう乗り越えて世界経済の中で新たな政策を打ち出していくのか注目しています。 国際通貨制度を考える場合に求められるのは、過去の反省と将来に向けての構想です。非常に難しいことですが、変化する時代の潮流の持つ歴史的意味を見極めながら、欧州の通貨統合という超国家プロジェクトのゆくえを追っていきたいと思います。もう一つは19世紀末のポンドが国際通貨として流通した国際金本位制を考察し、歴史的観点からこれらの国際通貨制度を研究していきたいと思っています。世界経済を視点に置いて欧州市場統合を中心に追っていきたいCREATION 〈No.166〉 2010 Summer4

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