Creation-168号
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 もともと私は、刑法を勉強したくて、学部2年生まではずっと刑法を勉強していたのですが、あるとき弁護士の先生から「民法が分かっていないと刑法はよく理解できない」というご指摘をいただいたことが、民法について真剣に勉強し始めたきっかけでした。厳しいことで有名だった民法の先生のゼミに入り、勉強を続けていく中で、先生が通説や判例に対して違う視点で意見を述べられたとき、通説や判例は絶対的なものではなく問題点もあり、法律学において1つの見解だけが正しいということはなく、通説や判例は必ずしも論理的整合性を有しているとはいえない、ということが、分かったのです。教科書においてさもあたり前のように書かれていることが、実はそうではない、それならば、通説や判例だけではなく、いろいろな学説および日本民法の起草者が参照した外国の法典なども総合的に深く調べて検討してみたいと思うようになりました。そして、通説や判例が示している論理的根拠を客観的に理解して整理した上で、再度自分の頭で考えて検討していくのですが、それが際限のないことになってしまって・・・。私みたいな方向と方法論で勉強していたのは、そのゼミの中でも少数でしたね。 私は、民法466条から468条の指名債権譲渡について、大学院時代から一貫して研究をしていますが、今は特に、民法467条の構造を解明することに全力を注いでいます。民法467条については、最高裁判所のきわめて重要な判例があるのですが、その判例を論理的に検討していくと、どうも問題点がいくつかあるようで、判例に批判的に条文の文言を解釈すると、判例と違う考え方が出てきます。通説や判例が本当に正しいのかということを疑っていくべきであり、そもそもこの条文はどのような過程を経て制定されたものなのか、どのような趣旨に則って規定されたのかを正確に把握しなければいけないことに気がついて、どんどん研究を深化させていったのです。 民法467条は、民法の草案である甲号議案の470条を前身としており、二つの規定の内容は同じです。この甲号議案470条は、民法起草者の1人である梅謙次郎起草委員が担当しました。『法典調査会民法議事速記録』には、フランスやドイツなど、複数の外国法典が参照されたことが記載されていますが、指名債権譲渡に関しては、特にフランス民法が参照されたとされており、それもあってフランス債権譲渡法との比較研究は、活発になされています。ただ、梅起草委員が同時にドイツ民法第二草案も参照していたことが明らかになっているにもかかわらず、そのドイツ民法第二草案について解明している研究者は、ほとんどいないのです。起草者が参照したドイツ民法草案が日本民法に与えた影響を検証する3号館前にある加藤恒忠(拓川)の胸像の前にて。民法467条は、どのような過程を経て制定されたのかドイツ民法第二草案が民法467条に与えた影響を検証する当然とされていることを疑うCREATION 〈No.168〉 2011 Winter3

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