Creation-169号
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【略 歴】 1946年 愛媛県西予市生まれ1973年 同志社大学大学院文学研究科修士課程修了1974年 松山商科大学経営学部助手1980年 松山商科大学人文学部所助教授1987年    同      教授(現在に至る)2009年 松山大学大学院言語コミュニケーション研究科長     (現在に至る)大学院 言語コミュニケーション研究科長人文学部教授 岡山 勇一 Okayama Yuichiているかということにまず注目します。その上で、登場人物のある性格が必然的に一つの行動につながる、あるいは彼がそういう性格の持ち主だからこの状況下ではこういう決断をする、そして最終的に「人間とはこうなんだ」と、自分にとってストンと"腑に落ちる"人間像を描いてくれる作家・作品を探し出し、それを広く紹介できればそれが文学研究者の社会貢献のひとつだと言えるのではないでしょうか。 私たちは人間の生き方を研究し追求する立場ですから、なぜその作品が素晴らしいと思うのか、作品の中のどこを根拠にしてそう思うのかを明確にしなければなりません。学生たちには作品研究レポートを書く際には「他の人はどう見ているのか?」について言及すること、すなわち、作品について書かれた先行研究を必ず参照するよう求めています。大変ではありますが、必ず自分の力となるし、「これだけやった、やれる」という自信もつくはずです。 学生たちが素晴らしい作品を読んで「人間(の想像力)ってこんなにすごいんだ!」という実感を持ち、「人間の可能性を信じ、自分が生きてみたい世界を構築・実現する決意を持つ」ところまで到達してほしいというのが私の希望です。今日のように就職が難しい状況でも、あくまでも大学卒にふさわしい処遇を求め続けるのか、それとも「何でもいいや」と妥協するのかでは、その後の人生はまるっきり変わってきます。生きる姿勢として何か判断を迫られたとき、小説に描かれている人間の決断や行動からヒントを得ることもあると思うのです。うのは大きな謎となっています。現在は、これをテーマとして研究を続けているところです。 フォースターはロレンスとは違って中産階級の家風と財産を受け継いできた家庭に生まれ、2歳で父親を亡くしてからは母子家庭の中で育ちます。一生結婚せずに1945年に母親が死ぬまでずっと彼女と同居し続けます。彼は同性愛者でしたが、そのことについては母親には絶対に知られたくなかったようで、﹃モーリス﹄は1915年ころ完成していましたが、その出版は彼の死後、1971年です。﹃インドへの道﹄などでは彼の同性愛の性癖は暗示的にしか描かれていません。彼は自らの性格や思想を作品の中で自由に表現できないことに苦しみました。彼は異性愛しか認めないキリスト教に対して、「それはおかしい。実際の人間はそうじゃない」と語っています。一つの作品を理解するためには、作家の根底にはどのよう思想や感受性があるのかを見ていく必要があり、そのためにはその人の人生を見なければいけないし、知るべきことはたくさんあります。 文学研究の対象として作品を読む場合、作者が人間の行動や心理を描くためにどういう言葉を使っ文学研究の先にある自分の生き方現在、テキストとして一押しなのがKazuo Ishiguro。日本生まれながらイギリスに帰化した作家で、これまでにもブッカー賞を受賞するなど、今注目されている現代作家の一人。CREATION 〈No.169〉 2011 Spring6

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