Creation-171号
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3647512 1928(昭和3)年、新田長次郎翁が嫡孫の利国氏のために建てたスペイン風の鉄筋コンクリート造の邸宅と広大な庭園。長い間、新田邸として使用されていたが、1989(平成元)年、本学に寄贈され、現在は勉学・研究の場として利用されている。 まず全体を眺めてみよう。白壁、スパニッシュ瓦葺きの屋根、アーチ形の窓など、大正~昭和初期に流行したスパニッシュ建築の形式を踏襲している。なかでも玄関周りはアラベスクの幾何学文様の特製タイルで装飾され、木製扉にも同じ文様が彫り込まれており、見どころの一つだ。その先にホール兼階段室があるのだが、階段上から見下ろすと、寄せ木造りの床がエッシャーのだまし絵のように浮かび上がって見えるので、来訪の際にはぜひチェックしたい︵※︶。 2階の娯楽室は一転してアール・デコ様式で、立派なビリヤード台が鎮座。また1・2階ともに東の一角は和室ゾーン。特に南側の入縁側は、温山翁自ら指示をして造らせたという池泉回遊式庭園の眺望を楽しむに絶好の場所である。 装飾はもちろん、施工も手入れも細部まで行き届いた邸宅は、現代でも品格を漂わせ、色あせることがない。立志伝中の人、温山翁。代々の卒業生たちが継承してきたその雄志を、今度は私たちが次代へ受け継いでいかねばならない。松山大学温山記念会館兵庫県西宮市甲子園口1-12-31(JR甲子園口から徒歩5分)※利用・見学の問合せは松山大学学生課へ温山翁は庭園に特別なこだわりを見せ、自らが指揮を執ったという。 ※P1~2参照3_玄関脇の小窓に使われている「牛の目状ガラス」は非常に珍しいもの。 4_2階会議室のステンドグラスはアール・デコ調。 5_一枚板でつくられた違い棚。一枚板で筆返しのそりを削り出すのは至難の業だという。 6_当時のスパニッシュ建築の価値を図る目安の一つに、イスラム風の意匠をどれだけ取り入れているかというものがあるが、玄関だけでもレベルの高さは一目瞭然。 7_元ダイニングルームを利用した1階セミナー室はクラシックなデザイン。ステンドグラスもシャンデリアも、すべてが当時のままだ。床や天井の意匠は部屋ごとに異なる。<本学学生との関わり>現在は松山大学および松山短期大学の教育研究の一環として、研究会、ゼミナール、学術研究調査等や、課外活動のために利用でき、宿泊も可能。写真は夏休みのゼミ合宿の様子。1_東側は町家風の和空間。2階入縁側に腰掛け、美しい庭園を眺めながらくつろげる。 2_池の畔に見える扉は防空壕。邸宅竣工の翌年に造られたもので、その当時は未曾有の大恐慌前夜。温山翁は後に起こる戦争の影をいち早く感じていたのかもしれない。CREATION 〈No.171〉 2011 Autumn12

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