Creation-171号
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世界の金融に大きな影響を与えるアメリカ金融機関の動き 私はずっとアメリカ経済について研究を続けていますが、特に今はサブプライム危機前後のアメリカの金融機関の業務展開に興味を持って研究を進めています。アメリカ経済の研究を始めたきっかけは、高校の頃アメリカへ留学した際「アメリカってすごい国だ」と感銘を受けたことにありました。大学でアメリカのことを研究できるゼミに進み、それがたまたま金融を勉強するゼミで金融に関する興味が深まり、そのまま大学院まで進んで現在に至っているという状況です。 アメリカの銀行は世界中に進出しているため、アメリカの金融を勉強していると、他国のこともとてもよく解ります。アメリカの銀行はサブプライム危機のとき非常に批判もされましたが、日本のモデルでもあり、ヨーロッパにも大きな影響を与えています。そういう意味でもアメリカを学ぶ意味は大きいし、金融を勉強・理解する入口としては非常に面白いんじゃないかとも思っています。 この20~30年、アメリカの銀行は投資銀行業務に非常に力を入れており、私も銀行の証券業務を追っているという立場から、公益財団法人 日本証券経済研究所(※1)に客員研究員として招かれ、先日もワシントン、ニューヨークの銀行や証券会社、SEC(※2)、GAO(※3)などに、昨年議会を通ったドッドフランク法の影響をヒアリングに行ってきたところです。ドッドフランク法とは、簡単に説明すると「サブプライム危機のような問題を起さないように、金融機関の規制を強めていきましょう」というものです。そのためにどうするか、ということについては何百という細かいルールがあるのですが、これから法律をどう運用していくのか、規制に伴う影響にはどんなものがあるのか等について調べてきました。来年はおそらくアメリカの金融機関がどのように進出しているか、ということを調査するためヨーロッパを訪問する予定ですが、アメリカの金融機関の証券業務を中心として、国際的に幅広く研究する予定です。 サブプライムローンには一応「すべての人々に住宅を提供する」という大義名分がありました。それまで資金を借りられなかった低所得者層への貸出を可能にするというのが建前ですが、持ち家率が上がっていないのは統計上はっきりしています。何にお金を使ったかというと、もともと家を持っている人で信用利歴の悪い人への貸出に使っていたのです。 サブプライム問題についてはアメリカの投資銀行(日本でいう証券会社)が悪いという話がよく出てきます。しかしアメリカのトップ3の銀行を「マネーセンターバンク」といいますが、それらの銀行が投資銀行よりサブプライム問題に非常に関わっていたという論文も書かれています。その中で「住宅ローンを貸していたのはマネーセンターバンクだが、それを証券化してサブプライム問題のフレームをつくり上げていったのもマネーセンターバンクだ」ということが示唆されています。 アメリカの金融機関そのものが問題だというよりも、売り手(マネーセンターバンク、投資銀行など)が後で損をする商品だと解っていて、それらの金融商品を高値で販売したということが問題であり、しかも売り手は破綻する前に引き上げているのです。彼ら自身は損を出さず、生命保険会社などは多数破綻している…アメリカの銀行は自分が儲けて、他には損をさせることが頻繁にあります。  しかし日本が加害者になった例もあります。失われた10年と呼ばれる不況期、日本の金融機関は国内に投資先がないため、東南アジアなどに投資してバブルが起きました。これを都市銀行が1997年秋に一気に引き上げたため、バブルヒアリング調査を中心に他国と比較しながら研究するアメリカ金融の動きを知る経済学部教授 掛下 達郎 Kakeshita Tatsuroサブプライム危機とその原因CREATION 〈No.171〉 2011 Autumn3

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