Creation-173号
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 松山大学では「グローバル人材育成のための外国語教育」の一貫として、また「自己表現の手段」として、「場面や相手に応じた適切なコミュニケーション能力」の育成を目指した英語教育に力を入れている。松山商科大学時代、ディベートで全国一位だった「英語の松大」の名を再び復活させたいという声が学内外から高まるなか、近年の松山大学の英語教育への取り組みは大きく変化してきている。 2010年に始まった、人文学部英語英米文学科の金森強教授とジェイ・アーカンブラック教授によるハワイでのサービス・ラーニングもその取り組みの一つ。松大GP〈※1〉の取り組みとして、20名の学生がハワイ大学マノア校に約20日間滞在するなか、現地の小学校・介護施設などでのボランティア活動やフィールドワークを通じて英語でコミュニケーションを取り、同時にハワイの社会・文化を体験的に学ぶプログラムとなっている。「これまでの座学による教育が中心だった海外英語研修とは違い、学生たちは寮に入って集団行動をとりながら、現地のコミュニティに入り、必要とされることを自分で考えて行動しなくてはなりません。今、企業が求める一番の力は自主性、その次がコミュニケーション能力ですが、サービス・ラーニングでは英語力はもちろん、その二つの能力を確実に伸ばすことができます」と金森教授は語る。 ハワイで初めての海外体験に戸惑う学生もいるが、次第に学生の意識と行動に変化がでてくるという。学童保育の帰りに現地の子どもたちから「帰らないで」と泣かれたり、打ち解けてくれない子どもがいて、悔し涙を流しながらも読み聞かせを続けたりするなど、これまでになかった新しい体験をすることで、学生たちは学内では見せないさまざまな成長を見せるようになる。「現地の人から『Thank you』という言葉をもらえることで、学生は『自分は社会で役に立てるんだ』、そして『もっと英語を使いこなせるようになり、いろんな知識や技術を持たないと、本当の意味で社会に役立つことはできないんだ』ということがはっきり解ります。サービス・ラーニングを経験した学生は、日本に帰ってからキャンパスでの学びやキャリア意識が変わります。TOEIC等の英語運用能力が高くなるだけでなく、ボランティア等のいろいろな活動にも積極的に参加するようになります」。 英語英米文学科以外にも海外研修やサービス・ラーニングを導入しようとする動きもあり、国際センターとの連携により近い将来には全学部への導入が実現されるかもしれないという可能性も見えてきている。単に英単語やフレーズ、文法を覚えるだけではなく、自分が伝えたいことを表現するための手段として、英語を使いこなせる力を身に付けさせることがこれからの英語教育には必要とされているが、そのためにも海外での実践体験は欠かせないものになってきている。 松大GPによるもう一つの取り組みに、大学院言語コミュニケーション研究科が主催する「アクション・リサーチ〈※2〉研究会」がある。愛媛県の小・中・高の英語教師と本学の教職課程にある学生とを集めて授業改善を目指し、月一回の研究会を行うもので、現在小学校部会では愛媛県を題材にした英語教材の作成に、高校部会では「英語で英語を教えるための研究」に取り組んでいる。「PDCAサイクルで授業改善を進めれば、結果として学習者の能力は向上します。一人ではできないことを教師集団として行うことが大切です。昨年は全国大会を本学で開催し各地から多くの参加者を得ることができました」。金森教授の言葉どおり、英語英米文学科と言語コミュニケーション研究科ではさまざまな新しい取り組みが始まっている。 「学習指導要綱が改訂され、英語教育のパラダイムシフトが起こり始めています。小学校に外国語が導入され、高校の英語の授業は“英語”で行うことになっています。欧州では外国語運用能力に関する到達すべき参照枠が示され、同様の参照枠を日本にも導入しようとする動きや、高校から第2外国語を取り入れようという動きもあります。外国語教育全体の流れが変ろうとしているなか、本学の外国語教育は今後どうあるべきか、真剣に考えなければいけない重要な時期に来ています」。 すでに英語ができることはあたり前になろうとしているこの時代、学部・学科を越えて英語力はますます必須となり、大学もそれに応えるための取り組みに力を入れていかなければならない。※1:Good Practice。教育改革を推進し、すぐれた教育の取り組みを支援するためのプロジェクト。松山大学から1事業あたり上限1000万円/年を3年間支援するもの※2:何か問題に気づいた時点で実態の把握と原因を究明し、対策を講じて実践し、結果を検証して解決を目指す授業改善方法マジダイの現場「学びを本気で変えていく」──── 松山大学、その答え。変革を迎える英語教育現場学生の意識が変わるサービス・ラーニング英語力と自主性を育てる教育サービス・ラーニングの様子。バロロの子どもたちと交流を深める学生たち。CREATION 〈No.173〉 2012 Spring11

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