Creation-173号
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裁判所が行った判断の具体的な基準とその根拠を明らかにしていく 学生時代は法学部で法律全般を勉強していたのですが、刑法のゼミに所属したのをきっかけとして、その後、ずっと刑法の研究を続けています。私の専門は、「正当防衛」ですが、特に判例評釈〈※1〉を通じて思うことは、判例の中には「オモシロイ」ものがあるということです。そういった判例を読むことの面白さが刑法を続けてきた理由の一つにあります。 例えば、ある迷惑駐車をめぐる裁判では、被告人は年老いた配達業者の運転手で、相手方は若くていかにも力のありそうなダンプの運転手でした。老人が車を停めていたためにダンプが入れず、年老いた運転手に苦情を言ったことがトラブルの発端でした。老運転手は不承不承という感じで車を動かしたもののダンプが通れるには不十分で、さらにダンプの運転手は「邪魔になるから、どかんか!」という横柄な態度で老人に文句を言いました。ところが老人が「言葉づかいに気をつけろ!」と言い返してしまったため、ダンプの運転手は老人を追いかけ、老人は自分の車の中にあった菜切包丁で身構えたのです。ここで警察が到着し、刃物を持っているからということで老人は逮捕されました。 高裁では“老人が刃物=武器を持っていた→応戦にしてはやり過ぎ→有罪”という判決になったのですが、最高裁では“被告人は老人で相手は屈強な若者なので武器なしに相手と対峙するとやられてしまう→武器を持っていなかったら圧倒的に被告人に不利があるし、ずっと応戦の姿勢を取っていた”という理由で無罪判決が下りました。 これまでの判例によれば、正当防衛状況の存在を前提として、例えば、甲が素手で、乙が武器を携帯している場合、乙の防衛行為には相当性が欠ける、という分析が有力でした。しかし、上記の最高裁判決はその判断基準を変更したようにも思われ、大変興味深いです。誰もケガをしていないので、本件は社会判例を分析することによって社会の変化を捉える検討の対象となる判例を過去の判例と比較する【略 歴】1969年滋賀県生れ1988年滋賀県立彦根東高等学校卒業1993年明治大学法学部法律学科卒業1995年明治大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程修了1998年明治大学大学院法学研究科公法学専攻博士後期課程単位取得退学1998年明治大学法学部専任助手2001年明治大学兼任講師(2005年終了)2004年松山大学法学部助教授2007年松山大学法学部准教授、愛媛大学法文学部非常勤講師(2012年終了)2010年松山大学法学部教授法学部教授明照博章MyoshoHiroakiCREATION 〈No.173〉 2012 Spring5

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