Creation-174号
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フィールドワークを通じて現場にいる人の経験を獲得し、ライフストーリーを解釈する 私は社会学を専門とし、特にエスノメソドロジーの理論研究と人々の社会的苦悩の臨床社会学的研究の二つを大きなテーマとしています。エスノメソドロジーとは、1967年にアメリカのハロルド・ガーフィンケルによって提唱された新しい学派で、私も1976~77年に彼のもとに留学し、授業を受ける機会に恵まれました。 彼は現象的社会学に影響を受けて、“理論的な仮説検証ではなく、最初に生活世界の体験ありき”と考えました。つまり人は意識的に計画を立てたり、意図を持つ前に生活に没頭しています。確かに意識的なコミュニケーションもありますが、“あたり前”すぎてそれらのことは必ずしも意識化されません。これを現象学では「生きられた経験」と呼ぶのですが、エスノメソドロジーはその生きられた常識的知識(=エスノメソッド)を研究対象にしています。 例えば毎日大学に通っている学生に突然「学校で何をしていますか?」とインタビューしてもすぐに答えは思い浮かばない。これらはすべてその人にとってはあたり前すぎることで、「見えているが、気づかない」部分なのです。 意識的に考えると、私たちが実際にやっていることが見えなくなると言ったのはヴィトゲンシュタインです。つまり、現場の人が当たり前にやっていることをまず子細に観察することが、理論的に考える前に必要なのです。現場に入ってフィールドワークを行うことで、ある歴史的・社会的な状況において、人々が習慣的に、なかば自動的に協働で行っている世界解釈の方法を、調査者も獲得できるようになります。これが人々が周囲の世界を「見て、言う」つまり「観察可能で報告可能なものにする」エスノメソッド(人々の方法)なのです。 エスノメソドロジー研究をするために必須の仕事は、まず現場にいる人々の経験を組み立てている方法や知識を、自ら習得することにあたりまえすぎて意識に上らない部分を意識化する人々の解釈の方法を考えるエスノメソドロジー【略 歴】1955年北海道生まれ1978年東北大学文学部卒業社会学専攻1983年東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学1983年山口県立女子大学専任講師1998年京都精華大学助教授2001年早稲田大学博士(文学)取得2002年京都精華大学教授養老孟司を委員長とする「輸入製剤によるHIV感染問題調査研究委員会」に所属いわゆる「薬害エイズ問題」の社会学的調査を行う(~2009年)2005年松山大学教授人文学部教授博士(文学)山田富秋YamadaTomiaki3CREATION 〈No.174〉 2012 Summer

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