Creation-174号
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マジダイの現場「学びを本気で変えていく」──── 松山大学、その答え。 大学進学率が50%を超えるという現在では、明確な意欲を持って進学している学生がすべてではないという。そのため、いかにして学生に大学に慣れさせ、意欲をもって勉強に取り組めるようにサポートできるかが、全国の大学で大きな課題となっている。2008年、文部科学省も学士力答申で“大学は正課と正課外授業があり、両輪で学生を教育しなければならない”という考え方を示した。 松山大学でもこれを受け、大学全体で学生を育てていくための取り組みとして、教育職員と事務職員(以下:教職員)を対象にした「ファシリテーター養成研修」を2010年度に行った。ファシリテーションとは「人々の活動が容易にできるよう支援し、物事がうまく運ぶよう舵取りをすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を支援し、促進していく働き」を意味する〈※1〉。この研修の目的は、教職員が自らのファシリテーション能力を高めることによりコミュニケーション能力を発展させ、学生教育・学生支援の質的・量的な向上を図るところにある。研修を修了した教職員は「ファシリテーター」と呼ばれる。 「この訓練を受けることで、教員は学生に対して一方的な“詰め込み”型の授業ではなく、何がわからないのかまず学生から聞き出し、より的確に指導が行えるようになります。また職員は円滑な人間関係を構築して業務の効率化を図りながら、学生との対話を増やして積極的なサポートを行えるようになります。教職協働で学生のやる気を引き出し、大学全体を活性化することを目指しています」(安田教授)  ファシリテーター養成研修は自己理解を深めることから始まり、次第に他者(学生・職場の人間など)を理解できるようになるプログラムが組まれている。ファシリテーターには、何かを“教える”ことではなく、“自ら発見し、学べる場づくりを支援する”という基本姿勢と、チーム全体を“よく観る”“よく聴く”姿勢が求められる。  「研修では、最初の段階で自分の価値観や思い込み、固定概念、欲求、動機などを十分に理解し、そこから生まれる行動や態度、醸し出す雰囲気などがチーム(他者)にどのような影響を与えるかまで考えることが必要となります。さらに、他者からの指摘や不満を素直に受け入れられるようになることも必要です」(西村課長) 現在、松山大学では、教職員合わせて10名がこのファシリテーター養成研修を修了している。修了した教員は「学生が何を求めているか理解でき、授業がスムーズに進められるようになった」「学生から意見を聞き出すことがうまくなった」、職員は「学生への対応の仕方が変わってきた」「職場内でのコミュニケーションが取れ始めた」など、明確な変化を感じている。 さらにファシリテーターは、新入生を対象とした入学前プログラム「自己の探求」(下記参照)の講師として学生を指導する役割を担う。大学をプールに例えると、クロールやバタフライなどの個別の競技を教えるのが「学部専門教育」、水に浮く方法やバタ足などの基礎を教えるのが「初年次教育」とするならば、このプログラムはプールに入る前の準備運動にあたる。学生が大学生活に慣れ、友人づくりができるようにサポートするなかで、学生自身に“気づき”を促し、“やる気”“意欲”を引き出す土壌づくりを行うのだ。このプログラムを受けた学生は、さらに上級のプログラムを受講する者も少なくない。それにあたる「リーダー養成講座」を受講した者のなかには、自分たちで企業とのマッチングを企画したり、サークル活動を始めたりするなど、さまざまな活動を自主的に行うようになり、教員からは「学生の授業へのなじみ方に、明らかな差がある」という声も寄せられている。 大学がそこまで学生サービスを追求しなければならないのかという意見もなかにはある。しかし大学のユニバーサル化が進む時代における学生教育・学生支援を考えるとき、従来の「最高学府であるから」とお高くとまっている時代ではない。大学のポジションをどう維持し、さらに高めていくのか、教職員が一体となってもっと真剣に考えていかなければならない時期にきている。※1:特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会HPより自己理解を深めながら他者を理解していく研修ファシリテーターによる入学前教育「自己の探求」教職協働による大学の活性化入学前教育プログラム「自己の探求」 ~意欲をもって大学生活に向き合うために~ コミュニケーションの基礎となる「自己についての認識、他人についての理解」を深めていく2日間の集中授業。6~7名程度のグループで進行し、参加者が良好な人間関係にあるチームをつくっていく『チームビルディング』を体験する。それらを通じて学生が大学での生活や各種活動を受け容れ、取り組める土壌を形成していく。 経済学部が松大GP「大学生活への意欲を高める導入プログラム」において、2008年度より推薦入試合格者を対象に導入したのをはじめとして、現在まで規模(対象者、学科)を拡大しながら実施している。5CREATION 〈No.174〉 2012 Summer

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