CREATION_175号
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現場経験を積んだ優秀な学生を育てる「学びを本気で変えていく」────大学間連携の強みを活かした実務実習松山大学、その答え。幅広い見方の出来る薬学教育をマジダイの現場〝医療人として質の高い教育を〟〝患者に顔の見える薬剤師を〟という社会の要請に基づいて導入された6年制薬学教育と同時に、松山大学の薬学部医療薬学科はスタートした。それまで日本の薬学は、基礎研究において世界に誇れる実績を上げてきた反面、臨床面の弱さが指摘されていた。そこで、教育年限の2年間延長と参加型長期実務実習が導入された。  「医療薬学の目標の一つに、医療現場に貢献できる医療人としての薬剤師養成があります。薬局カウンターでの顧客との対応やコミュニケーションの取り方を学んだり、ベッドサイドで患者と接しながら服薬指導や副作用の早期発見の取り組みを体験したりしています。さらに医師、薬剤師、看護師などが協働して患者個別の薬物治療計画を行っている現場を見学し、時にはこのような『チーム医療』に参加して学習を進めています。また、長期実務実習を体験することで、卒業後にどのような職場でどのように働くのかという具体的な自覚が生まれます。医療現場からは、薬剤師としてすぐに仕事が始められるだろうといった声もお聞きしています」(出石教授)松山大学では、地域の病院・薬局と様々な連携を図る中で、実務実習をさらに充実させようと、特に愛媛大学医学部附属病院と緊密な協力関係を持って特徴ある実務実習のモデルを構築しようとしている。現在、愛媛大学医学部附属病院では、本学から多くの薬学部生を受け入れて実務実習を行っているが、薬学部の臨床薬学教育研究センターの教員1名が、常に愛大病院の実習現場を訪問して共同で指導に当たっている。薬学部生にとっては自学の教員が来ていることの安心感があり、薬学部の教員にとっては実務に触れることで現場の感覚を維持できるという両面のメリットがある。愛媛大学医学部には医学科と看護学科があり、本学薬学部と協同することで今最も社会から求められている「チーム医療」の一員としての役割を薬学部生が早期から学べる大きなメリットもある。「合同授業では医学科、看護学科、医療薬学科の学生が共に〝ガン医療におけるそれぞれの役割とチーム医療〟というテーマに半日かけて取り組みます。まず、患者の声を聴き、次に、それぞれの学科の学生としてどう感じるか?考えるか?についてスモール・グループ・ディスカッション(SGD)を行い、最後にグループでまとめた内容を発表して討論します。これは他大学にはない新しい取り組みであり、 将来的に良質なチーム医療を形成していく上で重要な影響を与えるものと期待しています」(愛大:荒木教授)大学院博士課程(4年制)を開設するための準備も始まっている。薬剤師が臨床現場で実践を行う中で     5   どう発見した課題を大学院での研究として探求し、得られた解決策を臨床現場にフィードバックする。そのような研究力を備えた専門性の高い薬剤師を育てていくことも本学の使命だ。薬学部の新卒者だけでなく、既に臨床現場で活躍する薬剤師からも、松山大学に薬学系大学院を作ってほしいという要望が寄せられている。今後、さまざまな疾患に特化した認定薬剤師や専門薬剤師が臨床現場に加われば、医師は今まで行ってきた業務の一部を薬剤師にまかせることにより医師本来の業務に専念する、あるいは薬剤師からのアドバイスをもとに治療を進めることで、より医療の質が向上するだろう。今年、薬学部を持つ四国の3大学が連携して、薬学教育の質を向上させる改革事業「四国の薬学プロジェクト」が文科省の助成により始まった。四国の4薬学部が、それぞれ特徴ある専門性を相補いながら、学部教育を充実させつつ、薬学系4年制大学院の教育体系を構築して全国に発信していくことになる。化学や生物など自然科学を通じて発達してきた従来の薬学体系を基礎として、新しい薬学教育では薬の専門家としての薬剤師がチーム医療を通じて患者の健康にどれだけ貢献できるかに重点を置くことになる。「薬学の道程は、科学を通じて真理を解明し、技能を高めて、誠実に人に接することにあります。これは、本学の校訓「三実」、すなわち真実・実用・忠実そのものと言えるでしょう。私たちは松山大学ならではの特徴を活かして、従来のモノと知識から人と考え方を重視する方向へ薬学教育を発展させたいと願っています」(松岡薬学部長)。実際の医療には医療政策や保険制度、倫理や法律、そして経済などが複雑に関係してくる。文系の伝統を持つ松山大学に作られた薬学部では、文系の立場から医療を考える教員の協力も期待されている。自然科学をもとに薬の作用を考えるだけでなく、社会の視点から薬の正しい使い方を考えるという、本学ならではの薬学教育と研究の意義は非常に大きい。CREATION 〈No.175〉 2012 Autumn

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