Creation-180号
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るのが“いい薬”という東洋医学の考え方が注目を集めてきていると思います。天然物の研究はサイエンスとしてはインパクトが少ないかもしれませんが、天然物が持つ奥深さや多様性というものがよくわかります。そういった、生活に密着していることをテーマにしているありがたさを感じつつ、健康維持をサポートする天然由来の薬や食品の開発など、天然物を通して社会に役立つような立場でありたいと常に考えています。 成分分析で大切なのは「再現性」です。正確に測れるということは薬剤師として必須なことです。学生には測ることの影響力の高さと、それに伴う責任を感じて欲しいと思いながら指導を行っています。植物がなければ、調製することもできません。現状は90%以上を中国からの輸入に頼っているものの、「原料の薬用植物も地産地消を」という動きも全国的に出てきています。最近、愛媛県でも薬用植物栽培への取り組みを始め、当研究室もプロジェクトに参画させていただいています。今まで薬用植物を小規模栽培していた農家もありましたが、実際に広大な土地で栽培することができるのか、薬の原料として使用可能な量の成分を生産できる株が育つのかなど、クリアするべき問題は多々あります。しかし作物の付加価値が高まり、薬用植物栽培が休耕地の有効活用につながれば、“生産者が幸せになる仕組み”をつくる一助になるのではないかと考えています。 学生時代に取り組んでいた、まだ当時では注目されていなかったポリフェノールの研究は、なかなか結果が出なくて挫けそうな思いをしてきました。しかし諦めずに研究を続けて結果を出すことで、「未知なものの結果が出る瞬間の感動=サイエンスの醍醐味」を味わうことができ、今に至っていると感じています。 大学院を修了後、民間企業の研究所に入って「天然物」に含まれる機能性食品および香粧品素材開発の研究を行っていました。その後、厚生労働省の研究所で公務員として国民の安全に寄与するレギュラトリーサイエンスを追究する行政研究に取り組んだ後、縁あって松山大学に赴任しました。企業と行政という、まったく逆の視点での研究を経験しながらも、一貫して「天然物」をキーワードとした研究を続けさせていただいてきました。 高齢化社会が確実に進み、健康への意識も年々変化してきています。現在は、症状を抑えるために強い力を発揮する西洋薬と違い、身体の機能を活性化させて自らの力で本来の健康を取り戻し、病気になるのを防ぐための体質改善、すなわち「未病」に使え添加物、機能性食品素材などの成分、機能解析を主に行っていますが、愛媛県の特産品に含まれる成分研究と、その実用化に向けての研究にも取り組んでいます。松山大学に来たからには、愛媛県の一次産業を応援したいという想いもあって、柑橘類(河内晩柑、黄金柑など)、栗(イガ、実)、柿皮、茶などに含まれる成分を精査し、各種生理活性の活性本体を解明してきました。 これらは愛媛県の特産品に科学的付加価値をつけて素材の価値を高め、販売促進や新たな素材用途開拓を目指すものです。特に柑橘類の研究では、本学の薬理学研究室と共同で、河内晩柑の外果皮にはオーラプテン、ヘプタメトキシフラボンという成分が他の柑橘に比べて特に多く含まれていて、これらが脳機能の活性化に寄与することを明らかにしました。 昨今、生薬や漢方薬が注目を集めていますが、原料となる薬用着目して研究することで、現代病などの適用外の病気にも効果が期待できないかを探る、といったようなことです。 国が公示している「日本薬局方」という医薬品の規格基準書に、いろいろな生薬やそれらの主要成分が掲載されていますが、成分を確認する基準方法が確立されているものもあれば、そうでないものもあります。この基準がなければ本当に成分が含まれているのか、成分量は基準値に達しているのかなどの判断ができず、粗悪品や偽物が市場に出回ってしまいかねません。天然物の有効性、安全性を評価するための手法開発や科学データの集積などのレギュラトリーサイエンス研究も行っています。 生薬、漢方薬の研究を軸に、食品由来の免疫コントロール成分の探索、国内繁用生薬や食品一貫して天然物を対象にしてきた研究松山大学発の研究論文。新しく出された学術データにもできるだけ目を通し、情報収集に努めている。愛媛県の活性化をサイエンスでサポート10CREATION 〈No.180〉 2014 Winter

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