Creation-183号
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えていないことが多くあります。例えば、ある省庁からの行政指導に忠実に従ってみたら、別の省庁が定めた特別刑法に引っかかってしまったということも多々あります。そこで、最近では各行政法や条例が定めた制裁を刑法的に調整する法律をつくったらいいのでは、という考え方になりつつあります。 これらを解明するのに参考になるのが海外の法制度です。日本の刑法はドイツ刑法を参考にしています。ドイツでは今まで述べたような問題点に早くから着目し、すでに約50年前から「秩序違反法」という行政制裁の統一法ともいえるような新しい法律をつくって問題を解決しています。他のヨーロッパ各国やアジアの国でも同様な法律をつくって解決している状況なので、ドイツの秩序違反法と刑法の関係、その理論についても特に研究しています。 一つひとつの法律がどのような運用をされるべきなのかを研究する人はたくさんいますが、全体の理論枠組について考える研究者は全国で数えるほどしかいません。私は大学院時代に「刑法以外の刑法」の存在(特別刑法)を再認識し、刑法の次に興味があったのが行政法ということも相まって行政刑法の研究を始めたというわけです。義務違反に対しての制裁を規定したもので、近年では「制裁法」という名で議論されつつあります。私は刑法で刑事罰によって禁止される行為と、それ以外の制裁・罰によって禁止される行為の違い、その限界線はどこにあるかということについて研究しています。 犯罪行為に対しては、非常に緻密につくり上げられた「刑法」の厳格な考え方によって理論が形成されていますが、秩序違反行為は「行政法」による積極的で柔軟な考え方によって理論が構成されています。この犯罪行為と秩序違反行為との理論的関係や矛盾、刑法と行政法が交錯する領域を考察することが私の研究テーマです。 例えば廃棄物を悪質に捨てたとき「廃棄物処理法」によれば「罰金」などが科せられますが、そこまで至らない処理をした場合には行政機関が独自に決められる「過料」だけで済む場合があります。 罰金などは刑罰なので、刑事手続きを経て処罰される犯罪となりますが、過料は行政機関が「◯◯円を払いなさい」と言うだけで手続きも簡単です。一方は10万円の罰金で、犯罪行為と認定される。もう一方は1千万円の過料だけれども犯罪にはならないということがあります。これはどちらが重い制裁なのか、その差は何なのか、どんな秩序違反行為についても刑法のような緻密な判断は不要なのかなど、様々な問題が存在しています。犯罪行為とそうでない行為の線をどこに引くべきなのか、ということも考えていかなければなりません。 行政機関は自分の領域のことについて法律や条例で制定しますが、他の組織が制定する法律や条文との整合性を考「行政刑法」は研究資料の少ない分野なので、すでに購入済みの書籍でも本屋で目に止まれば生体反射的に買うようになってしまったという。今ではコレクションのように大切に保管している。刑法の矛盾を解決する新しい法秩序の制定を厳密に規定される犯罪と柔軟な秩序違反行為 近年、体感的な治安の悪化にともなって様々な特別刑法がいくつも立法されると同時に、行政制裁規定も増えてきています。このまま各種の制裁規定が増え続ければ、両者の矛盾はますます大きくなるでしょうし、それを理論的に解決しなければならない事態が確実に発生してくるでしょう。「特別刑法理論」や「行政刑法」は、刑法の研究領域においても極めてマイナーな領域で研究者も少なく、研究書籍も希少で、その大半は古いものとなっています。しかし現時点でも、また近い将来においても、この研究は社会に役立つものと信じています。4CREATION 〈No.183〉 2014 Autumn

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