CREATION-195号
5/20

瘍細胞に栄養を運んでくる新しい血管(新生血管)が必須です。しかし通常の血管と比べて新生血管はもろくて非常に破れやすく、しかも血管を収縮・拡張させて血流をコントロールする血管周囲神経がありません。 細胞や組織に酸素が足りなくなると、その部分に向けて血管を伸ばしていく仕組みが人体には備わっています。腫瘍は常に酸素欠乏のサインを出し続ける組織なので、多くの新生血管が生成され、腫瘍細胞は十分な栄養を得て増殖していきます。私の研究は腫瘍にできた新生血管に神経を分布させて、その神経を通して血管を動かし、血管を丈夫にして血液の流れを調節し、腫瘍の増殖を抑制しようというものです。血管周囲神経の増殖と腫瘍の変化を観察する 血管周囲神経は神経成長因子という物質(NGF)によって生命を維持し、分布します。そこで腫瘍細胞を移植したヌードマウス(腫瘍の移植に拒絶反応を示さないマウス)にNGFを投与して、腫瘍増殖を観察する実験をしました。その結果、腫瘍の増殖が止まり、マウスは生きながらえることができました。しかも腫瘍の新生血管には神経が分布し、筋肉(平滑筋)が多く見られ、丈夫になっていました。腫瘍が消えたわけではありませんが、成長が止まった私が発見した血管拡張性神経はカプサイシン感受性の神経です。カプサイシンは、唐辛子の辛味成分で、ピリッとした辛味、熱く感じる感覚を起こします。このカプサイシンを用いると、拡張性神経の機能が消失することを発見しましたが、その代わりに大変な目にも遭いました。カプサイシンの性質について無知だったので、扱い方に注意しなかったため部屋中に広がり、くしゃみ、鼻水、涙が止まらず大変でした。おまけにトイレに行ったら…そのあとの苦しみは想像におまかせします。腫瘍と共存する形でガン治療への応用を探る この研究で着目すべきはNGFが直接腫瘍を攻撃するのではなく、血管周囲神経を分布させることで、腫瘍の成長を抑制する働きをしているということです。この結果は薬学生時代からの私の夢であった抗ガン薬の開発に応用できるのではないかと考えています。 抗ガン治療は、抗ガン薬の副作用や手術などの苦痛を伴い、特に高齢者にとっては体への負担が高くなります。薬には効果が強ければ強いほど副作用も同じだけ強く現れ、手術によってガンを除いても残ったガン細胞が活性化することもあります。さらに一旦は治療の効果が現れても、その後に転移や再発で長きにわたって苦しむこともあります。 新生血管に神経を分布させる研究は、ガン細胞を死滅させないで共存するという考え方です。ガンは本来自分の細胞が変異し、増殖したものです。体内に残っても体に影響しないような状態で留め、共存できれば寿命を全うできると思います。そのうち、ガンではなく他の病気で世を去る可能性も出てきます。この考え方は、新たなガン治療と考えていますので、この研究にも社会が目を向けてほしいと思っています。けば、ガン細胞は成長できないのでは、と考えています。 また、研究のなかでのエピソードのひとつとして、今でも忘れられないことがあります。画像A・Bは血管拡張性神経。画像C・Dは血管収縮性神経。車に例えてみると、血管収縮性神経がアクセルならば、血管拡張性神経はブレーキのような存在であり、相互に機能することで必要な組織に血液を供給する。のです。これらのことから、新生血管に血管周囲神経を分布させれば、血液の供給が抑制され、腫瘍の増殖を押さえることができる。血管を丈夫にしておACGRP-LI nervesNPY-LI nervesBCD4CREATION NO.195 2017.10

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る