CREATION_196号
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4CREATION NO.196 2018.1ELBの存在自体が経済に影響を及ぼす規範となる金融政策の理論的構築を目指してlower bound、以下:ELB)と一部をマイナスにするマイナス金景気の浮き沈みが少ない方が経済厚生の損失が少ないと考えられています。 この〝経済厚生の損失〟を少なくするような金融政策を最適金融政策といいます。しかし、2008年の金融危機後、世界的に経済が停滞し、先進各国の政策金利は大きく下げられ、金利のゼロ下限に到達しました。このようなゼロ金利下の最適金融政策について、マクロ経済モデルを構築し、理論的・数量的に分析を行っています。 2008年の金融危機後に、先進各国が政策金利を下げて金利のゼロ下限に到達しましたが、日本や欧州では政策金利の利政策がとられていることから、金利の実効下限(effective 呼ぶようになっています。ELBに直面すると、政策金利調節方式による金融政策は制限されてしまいます。 こうした、金利がELBにぶつかってしまった下での最適金融政策について、多くの先行研究はコミットメント型(約束型)の金融政策が有効であると主張しています。その特徴は十分に経済が回復するまでゼロ金利政策を続けるというものです。 また、ELBはその存在自体が〝経済の動学〟に影響すると考えられています。金利がELBにぶつからなくても、ELBの存在が経済主体や中央銀行の予測を通じて予備的な行動を促し、経済の動きに影響を与える可能性があるのです。こうしたELBの影響を非線形効果や不確実性効果といい、近年のマクロ経済学でも重要な要素の一つとなっています。非線形効果は、金利がELBにぶつかってからも影響すると先行研究によって分析されており、非線形効果によって、景気の落ち込みがより大きくなるとも考えられています。このことからELBを考慮した分析では、モデルのシミュレーションにおいて非線形性をキャプチャーする数値計算の手法が求められ、私もそのような手法を用いてELBの経済への影響について研究しています。 日本経済はバブル崩壊とともに大きな景気後退を経験し、その後、マイルドなデフレを長期間経験してきました。ゼロ金利政策や量的緩和政策に代表される非伝統的金融政策は日本が最初に行いましたが、2008年の米国の金融危機後、先進各国もゼロ金利政策を経験することとなりました。失われた10年といわれた日本経済の問題はもはや世界中が直面する困難な課題となり、経済政策は難しい舵取りを迫られています。 これらの問題に対して、近年多くの先行研究がゼロ金利制約を入れた理論モデルを構築し分析を行っています。先進各国が非伝統的な金融緩和政策を続けるなかで、伝統的な金融政策のように規範となる政策を理論的に示すことができるのかという問題は、世界的に注目されていると言ってもいいでしょう。 ゼロ金利制約の導入は、解析において非線形性という困難な問題を生じさせます。大学院生中に身につけた数値計算の手法を応用し分析していくことで、マクロ経済学的にその経済構造を科学的に明らかにしながら、科学的に望ましい政策の分析をしていくことが、この分野への自分なりの貢献ではないかと思い、現在の研究に至っています。非線形効果の例:政策金利大学院時代に読み込んだ金融政策と数値計算のテキスト。理論モデルの基礎や、シミュレーションの技術を身につけるのに役立った。[%]4.5ゼロ下限に行っていないのに差が出る3.52.51.50.5‐0.5012345678政策金利の推移。金利を低下させる経済ショックに対する政策金利のマクロ経済モデルによるシミュレーション。金利のゼロ下限を考慮した場合金利のゼロ下限を考慮しない場合金利のゼロ下限9101112131415[時間]

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