CREATION_208号
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14CREATION NO.208 2021.1□ 柑橘研究のきっかけと「河内晩柑」に着目した経緯を教えてください。■ 天倉 愛媛県の第一次産業を応援することで、地域活性化や社会貢献に役立てたいと柑橘の研究をスタートさせました。神経細胞の情報伝達機構に着目し、その活性化を指標とするスクリーニングを種々の愛媛県産柑橘に対して実施。河内晩柑の果皮に脳保護作用のある機能性成分「オーラプテン」が多量に含まれていることを発見しました。古川美子名誉教授の薬理学研究室と、我々の生薬学研究室がそれぞれの技術をマッチングすることによって成し得た研究です。□ 「オーラプテン」の機能・効果とは?■ 天倉 オーラプテンは柑橘独特の化合物で、なかでもブンタン類に存在します。果皮成分ですが、私たちは、河内晩柑を搾汁する過程で一部は果皮から果汁に移行することを明らかにしました。オーラプテンの脳保護作用は、脳に移行し、脳内の炎症を抑え、神経細胞のダメージを抑制することによります。炎症反応はからだの機能を正常化しようとする防護反応ですが、最新の研究から、行き過ぎた炎症反応は正常な細胞にまでダメージを与えてしまうこと、認知症や慢性疾患を発症させることがわかってきました。私たちは、2018年12月に愛媛県庁にて報告会が行われた。現在、商品は(株)えひめ飲料にてネットで販売されている。河内晩柑の果皮に「脳の認知機能を維持する機能」を発見□ 商品化への道のりを教えてください。■ 天倉 松山大学の基礎研究をもとに、松山大学、愛媛県、愛媛大学、(株)えひめ飲料という産官学民共同で、河内晩柑に含まれるオーラプテンの機能性を食品として活かす研究が進められました。その結果、果皮ペーストを果汁にブレンドすることにより、認知機能の一部である記憶力の維持が認められるオーラプテン高含有河内晩柑果汁飲料を創出することができました。この飲料を摂取した中高年者では、認知機能の一部である記憶力の維持が認められました。□ 先生が考えるサイエンスの難しさと醍醐味とは?■ 天倉 研究は繰り返しの作業のなかからデータを解析することの繰り返しで、研究力と好奇心、粘り強い根気が備わっていないと取り組めないかもしれません。また“運”の巡り合わせに左右されるところもあります。そんななか、再現性の高いポジティブなデータが出たときはとてもうれしい一方で、身が引き締まるような気持ちにもなります。非科学的でナンセンスと思われていたことが、研究の結果、新しい常識になることも起きています。今日の科学的常識を変えるのが、研究の醍醐味のようにも感じます。□ 学生たちへメッセージをお願いします。■ 天倉 日々の研究の積み重ねから研究力や指導力を養うことはもちろんですが、医療現場を含め、社会では限られたデータのなかで最良の判断を求められる機会が多々あります。そこに新たなデータが加わると、その判断がパラドックスになる可能性もありうるなか、最善の軌道修正が迅速・的確にできる判断力と行動力を、研究を通して少しでも養ってほしいと願っています。薬学の立場から、現代医療に資する生薬・天然物研究を軸に、副作用を抑えた天然医薬品開発、機能性天然素材の開拓、生薬・既存添加物等の品質向上につながる研究を行っている。脳保護作用のあるオーラプテンを多く含む河内晩柑の果皮をペースト化し、河内晩柑果汁にブレンドしたジュース。認知機能の一部である記憶力(言葉を記憶し、思い出す力)を維持する機能性表示食品として注目を集めている。2017年11月に東京の都道府県会館にて、河内晩柑ジュースの効能に関する在京メディア向けの説明会を開催。薬学部医療薬学科天倉 吉章 教授松山大学薬学部では、河内晩柑の機能性に関する基礎研究を長年に亘り行ってきた。その成果を活かした商品を創出するための研究を、2014年から3年間かけて実施。得られた研究成果に基づき、認知機能の一部である記憶力(言葉を記憶し、思い出す力)を維持するジュースの商品化に成功した。その開発の経緯と、研究の面白さや醍醐味について伺った。オーラプテンの抗炎症作用を培養下の神経細胞や種々の病態モデル動物を用いて明らかにしました。学内外で幅広い活動をしているマツダイビトをCLOSE UP!河内晩柑ジュース商品化への歩みマツダイアイズ愛媛産かんきつから新発見!アシタノカラダ 河内晩柑ジュース大EYES松

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