CREATION_220_EBOOK
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日本では1990年代の初頭から「※個2別的労使紛争」の増加が認識され始めるようになりました。その背景には、労働組合の組織率の低下、集団から個別へと労務管理形態が変化してきたこと、正社員比率の低下、労働者の意識の変化など、様々な原因があります。個別的労使紛争を処理する制度に、訴訟という形を取らずあっせん(調停)で解決する「※裁3判外紛争解決手続(以下ADRと表記)」があり、2000年代に新たに運用が開ADRを総括的に検証個別的労使紛争の制度の利便性向上や費用対効果の改善に始された労働委員会や労働局、裁判所      などの公的制度によるADR、社労士会労働紛争解決センターや弁護士会紛争解決センターが行っている民間型ADRについて、それらの有効性を総括的に調査・研究しています。ていた都道府県の「労働委員会」が、2001年4月に、「個別的労使紛争のあっせん」を開始しました。学識経験者らで構成される都道府県労働局の「紛争調整委員会」の運用も、同年10月にスタートしました。これらの制度の処理実績は、紛争調整委員会への申請が年間4000件程度であるのに対し、労働委員会への案件は2~300件程度しかありません。これは、労働委員会の事務局が県庁所在地にのみあるのに対して、紛争調整委員会は、労働局の配下で県下全域をカバーしている労基署やハローワーク等の労働相談窓口のネットワークを有することによるものと思われます。ハローワークが、労使紛争を顕在化させる側になることの多い労働者にとって馴染みのある機関であることも、紛争調整委員会への申請が多くみられる要因となっていると考えられます。ADRで一番有効に機能しているのは、元々、集団的労使紛争のみを扱っおり、非常に高い有効性を有しています。裁判所の「労働審判制度」です。裁判所で行われますが、訴訟ではなく、労働審判委員会で迅速に審理・判断をし、積極的に和解のための調停作業を行い、短期間で紛争を解決に導く優れた制度になっています。しかし、原則的に代理人として弁護士を依頼する必要があり、着手金が、普通の労働者にとってはかなり高いハードルになっているという課題があります。それでも、弁護士が不要で、かつ無料で利用できる労働局の紛争調整委員会や労働委員会のADRの解決率が労働審判制度では80%程度にもなって民間機関もADRを設けており、労使紛争に関与するのに最適の専門的士業の組織である社会保険労務士会は、個別的労使紛争の処理に特化した唯一の全国レベルの「社労士会労働紛争解決センター」を展開し、日本の労使紛争処理制度の一翼を担うようになりつつあります。弁護士会も、紛争解決センターにおいて、民事紛争解決サービスの一環として、労働関係民事紛争を扱っていますが、紛争解決センターが設置されていない県が、全国で3割ほどもあります。まさに平均的な地方都市にある松山大学に赴任してきたことから、愛媛県内に労働法を研究する先生は非常に少なく、2000年以降に新たに運用を開始した労働委員会や労働局の制度において、委員として、運用する側で直接関与することができたことが、何よりも幸運なことでした。労働委員会や労働局等の行政機関、裁判所における労働審判制度や訴訟、そして民間機関に至るまで、多様な労使紛争処理制度がありますが、制度に携わる関係者や労働法の研究者においても、関わったことのない制度の運用実態を正しく認識していることは稀です。労使紛争処理制度の運用の実態を明らかにすることが、制度の改善や制度間の協力関係の構築につながる議論にも役立つものと考えています。制度に関わる人たちに正確な情報を伝えることを目的に、自身が研究してきた内容を論文や研究所の所報、書籍などの形で定期的に世に送り出している。(出典/厚生労働省HP「個別労働関係紛争のあっせん」)※2…労働者個人と事業主との間で起こった労働関係に関するトラブル※3…裁判によらず公正中立な第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決を図る。30~50%台に止まっているのに対して、学術研究被申請者が被申請者があっせんにあっせんに応じない応じない労使の労使の歩み寄りがない歩み寄りがない打切り打切りあっせん申請あっせん申請あっせん員指名あっせん員指名労働者及び事業主双方に事前調査労働者及び事業主双方に事前調査あっせんによる調整あっせんによる調整あっせん案を労使双方が受諾、あっせん案を労使双方が受諾、あっせん員の助言などにより双方があっせん員の助言などにより双方が自主的に話し合うことを了承自主的に話し合うことを了承解決解決自主解決により自主解決によりあっせんの必要があっせんの必要がなくなったなくなった取下げ取下げ「個別労働紛争のあっせん」の流れ

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