CREATION_223号
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し、地域内に利潤を還元することができる組織とはどのようなものなのか?という問題意識から、地域再生論は学部生時代からのテーマでした。学部の卒業論文では大洲市豊茂地区の買い物弱者問題とそこでの自治会の対応について、修士論文では愛媛県内の地域おこし協力隊の実態をまとめました。博士論文ではこれまでの自身の研究の総合として、県内各地の事例を踏まえながら地域再生を担う主体形成として「地域再生プラットフォーム」概念を提起し、その構築の論理を検討しました。今後もこのテーマが研究の中心になります。て、見えてきたのは“理論が弱いのでは?”ということでした。地方の現場に行くと、事業者や自治体職員は、地域再生は一過性のイベントや補助金で終わるものではなく、“最終的に地域として何を目指すのか?”という長期ビジョンが必要だという問題意識は持っています。しかし、どのようにビジョンを構築していけばいいのか、何を目標とすればいいのか、それらについて具体的な理論が成立していません。そういった課題に対応するべく、地域経済学者として理論と実践を示すことで、地域再生の方向性を示そうとしたことが研究のきっかけです。ても取り組んでいくべき課題となっています。地方から人が流出し、地域が維持できなくなるのは“都会で豊かな生活をしたい”という気持ちが根底に存在しているからです。地域を持続させるには、地域のなかに存在する農家や中小企業といった“生産を担う人”たちが生活を地域再生を課題に研究を続けてき地域再生は地方のどの自治体におい維持できることが前提であり、そのためには周囲との協働や連携が不可欠です。地域内の農家や中小企業といった事業体単位の小規模な連携は、今でも各地に見ることができますが、地域全体を維持・再生するためにはその連携の領域をさらに押し広げ、生産者・労働者(=生活者)の協働を可能にする、地域としてのプラットフォーム(基盤)が必要だと考えています。2010年代を通じて全国で形成され始めたR※MO(地域運営組織)という住民組織の形態は、自治活動やスモールビジネスによる経済活動を両立させる取り組みを実践しているので、地域再生の可能性を秘めていると感じています。地域を研究対象にするということは、経済的事象だけでなく、文化や歴史など幅広い興味関心がなければできません。愛媛県を中心にした国内外を対象に、時間をかけてその土地を歩き、研究者としての視点だけでなく、生活者や観光者の目線でも地域を見渡しながら、その地に合ったプラットフォームを成立させるための政策立案・制度設計をどうすべきか構想しています。地域再生は現代日本に共通する緊急の問題であり、小土地所有・小経営を維持しながら、その協働や連携による「地域再生プラットフォーム」を構築することは、地域再生と持続可能な地域へとつくり変える変革のきっかけともなりうると考えています。特に四国は良い意味で都会とのタイムラグがあります。例えば、零細な酒蔵が残っていて、地元の原料と労働力を用いながら少量生産を続けているところがあります。これは小土地所者・小経営者同士の協働や連携の可能性を秘めた例であるといえるでしょう。 21世紀的問題である人口減少を前提とした、持続可能な地域経済・社会の制度設計である「地域プラットフォーム」論を提示することは、地域再生に対するインパクトになると考えています。持続可能な地域へとつくり変える契機地域再生の鍵となる地域プラットフォーム     6学術研究基盤・受け皿としての協働的プラットフォーム地域再生プラットフォームは、地域変革主体の形成→外部アクターとの関係性を含めたネットワーク形成→協働的プラットフォームの形成という点→線→面的な主体形成の経過をたどると考えられる。日本の地域再生論にとどまらず、台湾や中国の都市と農村の地域経済社会にも関心を持っているという。地域再生プラットフォーム論と同時並行で、酒造業の調査および論文執筆も進行中だ。CREATION NO.223外部アクター(交流・関係人口)行政交流・関係移住者Uターン民主的な所有・管理民主的な所有・管理協同組合住民農業漁業者中小企業NPOJターンシステムの共同利用システムの共同利用に基づく運営に基づく運営地域課題の解決地域課題の解決※RMO(Region Management Organization)…地域の暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成された組織。総務省と農林水産省がRMO形成を推進しており、自治体の支援を受けながら、地域経済やコミュニティの維持など、地域課題の解決に向けた取り組みを持続的に実践している事例が全国で見られる。外部アクター連携・協働退出者「地域再生プラットフォーム」の概念

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