望月 雄介 准教授
経済学部経済学科
日常のコミュニケーションで感じる疑問から言語の「なぜ」を解き明かす
経済学部経済学科准教授
望月 雄介 MOCHIZUKI Yusuke
略歴
2014年 北京大学中国語言文学系修士課程修了(文学)
2021年 名古屋大学大学院国際言語文化研究科博士後期課程満期退学
2021年 立命館大学言語教育センター嘱託講師
2022年 名古屋大学大学院博士(文学)
2023年 松山大学経済学部准教授(現在に至る)
談話研究の面白さはコミュニケーションの見える化
私が現在、もっとも力を入れているのは「談話研究」です。談話とは、文の集合体で、まさに私たちのコミュニケーションが談話と言えます。会話で使うような話し言葉を談話とするのか、文章のような書き言葉も談話とするのか、またチャットのような打ち言葉も談話とするのかなど、研究者によって見解に差異はありますが、私は話し言葉も書き言葉も打ち言葉もすべて含めて談話研究の対象であると捉えています。「談話研究」とは、談話そのものを研究したり、談話を利用して社会にある現象を解き明かしたりする研究分野であり、社会にある「見えないもの」を「ことば」によって「見える化」していくものです。
「ことば」は誰もが毎日使っていますが、普段からコミュニケーションというものを意識することは無いでしょう。その無意識にしているコミュニケーションの様態を明らかにするのが「談話研究」といえば理解しやすいかと思います。日本語が話せる者同士でも意図が伝わらない現象や、話が噛み合わない現象など、ヒントは日常のあらゆるところに存在しているため、「ことば」に敏感であれば研究のテーマには事欠きません。私はコミュニケーションに関して興味があり、そこで気になったことは全部考えてみるということを信念としています。感覚として持っていたものが「ことば」を介して明らかになっていく過程に、研究の醍醐味を感じています。
談話研究がサッカー審判界へ与える影響
最近発表した論文に、「レベル別に見るサッカー審判員の視点と思考-発話プロトコル分析の結果から-」があります。サッカーの試合において、審判員はどの部分を、どの視点から、どう見るのか、審判員のレベルによって視点や思考にどのような違いがあるのかについて、審判員たちの「ことば(談話)」から論じています。私自身がサッカー2級審判員と、審判2級インストラクターとして活動していたこともあり、審判員の級によってファウルの判定にどのような違いがあるのかについて疑問を持ったことが、この研究のきっかけでした。今後、審判員として自分にはどのような力が必要だろうか、また、インストラクターとしてどのように指導できるだろうかと常に考えていたので、自分の武器である言語学からその疑問にアプローチしてみようと思いました。
この研究では、1〜4級の各審判員に試合の映像を観せ、その中で自由に語ってもらい、級によって発話の内容がどう違うのかを検証していきました。4級では、「すごい」「うまい」といった、審判以外の第三者視点からの発話が特徴として見られ、3級では主審視点からの発話や、説得力を持たせる判定を下すにはどうすれば良いかという発話が見られました。2級はフィールド全体を見る視点を有し、ポジショニングや戦術に関わる発話が見られ、1級になると、試合全体を見て選手の動きや試合の展開を予測し、事象が起これば時間を遡って検証するといった発話が特徴的でした。
この結果として、審判員のレベルによる発話内容の傾向や、レベルが上がればどの部分で発話の内容が変わっていくのかということを「動的」に捉えることができました。この研究はどのように審判員を育てるのかといった審判教育に貢献できると考えられます。さらに観客も審判員の視点や思考を知ることで、担当審判員を尊重することができるようになる可能性もあります。
談話研究の成果を社会に還元する
「人々の幸せにつながる」「社会の役に立つ」言語コミュニケーション研究を意味する「ウェルフェア・リングイスティクス」という専門用語があります。私は研究成果を社会に還元していくことを意識しています。身近な言語現象に焦点を当て、誰もが使える「ことば」を介して「見えないもの」を「見えるもの」にしていく談話研究は、円滑なコミュニケーションを実現するための指南書的な役割を果たしていくでしょう。談話研究は他に教育面でも力を発揮し、「人々の幸せ」の実現につながっていく可能性が大いにあると考えています。
今後は談話をベースに、中国語の会話や、スポーツと言語、世代間ギャップなど、地域や社会に寄り添った研究を続けていきたいと思っています。
この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.225でご覧いただけます。
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