
松山大学薬学部医療薬学科 三谷拓斗さん
松山大学薬学部で学ぶ三谷さんは、薬学の専門知識を深めるだけでなく、その枠を超えた多様な活動に積極的に挑戦し、自身の可能性を広げている。親戚の難病指定をきっかけに薬学の道を志した三谷さんが、好奇心と行動力を武器に大学生活で何を学び、未来へ繋げようとしているのか、その熱い思いに迫る。
難病治療への想いが導いた薬学の道と研究への探求心
三谷さんが薬剤師を志したのは、高校1年生の頃であった。親戚が難病指定を受け、多くの薬を服用している姿を見て、「この薬はどういう作用があるのだろう」「なんとかしてあげたい」という強い思いが芽生えたという。元々、理数系に興味があり、特に研究が好きだったこともあり、薬学部に進学を決めた。
数ある大学の中から松山大学を選んだ決め手の一つは、地元愛媛県内で研究環境が整っている点である。特に、大学ホームページで知った口腔内崩壊錠の研究に惹かれ、松山大学で学びたいという思いが明確になった。
現在は、高校時代に食虫植物の受容体を研究していた経験から、「光の受容体」を研究する研究室に所属している。「受容体の研究は面白そう」という直感で飛び込んだ。三谷さんにとって、研究とは「面白い」という好奇心が何よりの原動力だ。「実験で失敗した理由を考察する方が、成功した時よりも好き」という言葉からは、知的好奇心の強さと探求心がうかがえる。失敗を深く掘り下げ、真理に近づこうとする姿勢こそ、未来の医療を担う研究者・薬剤師に不可欠な資質である。
薬学の知識を身近に:薬学部生が仕掛けるユニークな「体験」活動
薬学部は多忙なイメージがあるが、三谷さんは「思ったより勉強と両立して色々なことができる」と語り、大学生活を謳歌している。
その代表的な例が、大学祭での出展企画である。先輩もやったことのないこの挑戦は、三谷さんが仲間を集めて実現させた。出展では、薬学の知識を活かしたユニークな内容を展開し、来場者に「薬学」を身近に感じてもらう工夫を凝らした。
・「色が変わるドリンク」: バタフライピーシロップ(中性で紫)が酸性のジンジャーエールと混ざるとピンクに変わるという、化学の原理を用いた体験型ドリンクを提供した。この科学的な変化を目の前で楽しんでもらう企画は、味へのこだわりも相まって大盛況を博した。
・「ベンゼン環型のハンコ」や「周期表のハンコ」: 薬学部ならではのモチーフを取り入れ、専門的な内容を楽しく伝え、大きな反響を得た。
さらに、三谷さんは薬学部のサークルである「医療を考える会M.S.G.」に所属し、大学祭で「モバイルファーマシー(動く薬局)」の運行体験を企画している。これは、子どもたちをはじめとする地域住民に「薬剤師って何をする人?」「薬はどうやってできるの?」といった疑問に答え、薬剤師の役割と薬の作用を分かりやすく伝えることが目的だ。「薬剤師をもっと知ってほしい」という三谷さんの熱意が、地域社会への貢献という形で具現化されている。
全国を舞台にした意見交換で視野を広げる
三谷さんの行動力と挑戦意欲が最も際立っているのが、日本薬学会が実施する「シン・全国学生ワークショップ」への参加である。全国の薬学系大学から参加者を募るこのワークショップに、三谷さんは教授からの推薦で参加した。
「挑戦すること、経験することを大事にしている」という信条を持つ三谷さんは、迷うことなく参加を決意した。全国の同世代と交流することで、松山大学の中だけでは得られない多様な価値観や視野を共有できたという。
議論では、都会と地方の医療の違いとして、東京の「病院の待ち時間の長さ」や、愛媛のような地方の「高齢者への情報発信の難しさ」といった、地域ごとの医療課題について熱く議論を交わした。また、各大学の研究内容についても、自分の知らない研究室や興味深い研究テーマに触れ、「ワクワクした」とのことである。
このワークショップは、三谷さんにとって「自分と同じ立場の仲間が増えた」ことに加え、「さまざまな価値観や視野を共有できた」という点で非常に貴重な経験となった。参加後は、松山大学薬学部の学生を対象に、報告会を実施した。「後輩にもぜひ挑戦してほしい」と三谷さんは力強く次世代への期待を語っている。この経験は、将来、幅広い医療課題に対応できる人材へと成長するための大きな糧となったに違いない。
将来の展望:「伝える」喜びから見えた、医療と製薬を繋ぐMRの道
将来について、三谷さんはもともと研究職志望であったが、最近は製薬会社のMR(医薬情報担当者)職に興味が出てきたそうだ。大学での様々な企画や、ワークショップでのディスカッションを通して「プレゼンすること」の楽しさに目覚めたことがきっかけである。
「医師に自社製品をプレゼンし、多くの人に薬を届けるということにやりがいを感じる」と語る。薬の作用機序を深く理解する研究的な視点と、培ったコミュニケーション能力を活かし、医療現場と製薬会社を繋ぐMRは、三谷さんの適性を最大限に活かせる職種の一つである。また、大好きな研究を続けるために大学院進学も視野に入れつつ、社会人としてのキャリアを模索している。
最後に、後輩や高校生へのメッセージとして、三谷さんは「ワクワクすることを一番大事に、好奇心を持ってとりあえずやってみるを大事にしてほしい」と伝えた。
研究、課外活動、全国規模の交流—三谷さんの大学生活は、好奇心と行動力によって、常に新しい扉が開かれ続けている。薬学という専門分野を軸に、挑戦を恐れず経験を積み重ねていく三谷さんのこれからの活躍から目が離せない。














