文学作品の表現と背景を探り 思考と創造の可能性をひらく

湊 圭史 教授

文学作品の表現と背景を探り 思考と創造の可能性をひらく

人文学部英語英米文学科教授
湊 圭史 MINATO Keiji

●略歴
1996年3月 立命館大学文学部 卒業
1998年3月 立命館大学文学研究科博士課程前期課 修了
2002年3月 立命館大学文学研究科博士課程後期課程 単位取得満期退学
2014年4月 同志社女子大学表象文化学部英語英文学科准教授(2019年3月)
2019年4月 松山大学人文学部英語英米文学科教授(現在に至る)


表現への憧れが文学研究の道を拓く

中高生の頃から文学作品や批評文を読むことが好きで、その延長として大学でも文学部を選びました。もともと自分でも「表現したい」という思いがありましたが、表現そのものの難しさを感じる一方で、作品が生まれる背景や、そこに込められた表現を読み解く批評や研究の世界に強く惹かれていきました。
現在は、19世紀アメリカ文学やオーストラリアを中心とするオセアニア文学、現代詩、日本発祥の俳句・短歌の世界への広がり、さらにブロードウェイを中心としたミュージカル作品など、幅広い領域を研究対象としています。俳句については以前から句会に参加するなどしており、関西から松山に移ってきたのも俳句を通じて親しみを感じていたことが大きいです。
ミュージカル研究では、歌詞の言語表現を音楽や舞台演出、映像表現と合わせて分析し、総合芸術としてのミュージカルがどのように成立しているのかを考えています。作品が生まれた社会に共有される価値観や、コミュニケーション・スタイルを踏まえながら、作品や個々のパフォーマンスが持つ独自の魅力を探ることが研究の中心となっています。
もともと音楽が好きで楽曲の分析などをしていましたが、2016年にトニー賞で11部門を受賞したヒップホップミュージカル『ハミルトン』に出会ったことが、本格的にミュージカルを研究するきっかけとなりました。アメリカ合衆国の独立から建国初期の時代を取り上げた歴史物のミュージカルで、登場人物がラップによってダイナミックで多層的な社会像を表現していることが印象的な作品でした。

2019年、NYブロードウェイ最大の劇場、ガーシュウィン・シアター にて『ウィキッド』観劇。ブロードウェイは41の大劇場(500席以上)で構成されるが、ガーシュウィン・シアターは席数約1,300を誇る。

 

ミュージカル表現の構造と文化的機能

ミュージカルは、芝居の流れのなかに歌やダンスが組み込まれた演劇です。突然音楽が流れ、登場人物が踊り出す場面に「不思議さ」を感じる人もいますが、その“非日常への飛躍”こそがミュージカル特有の魅力です。
ミュージカルは日常のコミュニケーションを土台にしながら、登場人物の感情や個性を大胆に拡張して表現します。人は日常生活のなかで感情をすべて人前に露わにすることはありませんが、ミュージカルでは登場人物の胸中にある感情を、歌詞のレトリックやメロディ、リズム、ダンスといった表現を通して大きく可視化します。また、クラシック、ロック、ポップス、ジャズなど、多様な音楽ジャンルを使い分けることで、登場人物の社会的立ち位置や文化的背景を示すことも可能です。アメリカ文化においてミュージカルは、時代の価値観を更新し続けるジャンルであり、多様な人々をつなぐ国家的な表現形式としても機能しています。今日でも新しい価値観を反映し、同様にそれ自体が価値観を生み出す場として位置付けられています。
ミュージカル研究では、作品の文化的背景――歴史・ジャンル・楽曲の役割など――を多角的に検討し、作品がどのように成立しているのかを分析します。さらに、作品が国境を越えて広がるとき、あるいは時代を経て再構築されるときにどのように変化するのか、漫画・小説・映画など別媒体に変容する「アダプテーション」にも関心があります。原作をどの程度踏襲するのか、新しい解釈をどのように取り入れるのか、社会的・文化的背景の違い、時代ごとの価値観やジェンダー観の変化、テクノロジーの発展といった条件の中で、作品がどのように姿を変えていくのかを探求することが、研究の重要な視点となります。

文学の研究によって育まれる思考と表現

文学研究のアプローチも時代とともに変化してきました。かつては、亡くなった作家の作品を対象とした研究が中心でしたが、やがて同時代の作家も扱われるようになり、現在では作家個人ではなく、テーマや概念を軸に研究する方法が主流になっています。文学を読み解くための方法は無数にあり、それらの組み合わせによって新たな視点が次々と生まれます。
こうした文学研究は、「ものの見方」を身につけることにもつながります。一つの作品を読むとき、作者が意図したメッセージだけでなく、その背後にある時代の固定観念や欲望、不安といったものまで見えてくるようになるからです。広い意味では、人は誰しも自分の思いを他者に伝える「表現者」です。文学を研究することは、思考の幅を広げると同時に、自らの表現の可能性を豊かにし、人生を深めていくことにもつながる営みだと考えています。

ミュージカル関連の資料。近年のヒット・ブロードウェイ・ ミュージカルの豪華版の注釈付き台本や東温市の坊っちゃん劇場で上映されたオリジナル・ミュージカルのDVD。

この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.228でご覧いただけます。

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