既存薬の新たな可能性を医療ビッグデータで見出し、未知の用途を切り拓く

武智 研志 准教授

薬学部医療薬学科准教授
武智 研志
TAKECHI Kenshi

●略歴
2002年3月 愛光高等学校 卒業
2006年3月 京都薬科大学薬学部薬学科 卒業
2008年3月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 博士前期課程修了
2011年3月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 博士後期課程修了 博士(薬学)
2011年4月 愛媛大学医学部附属病院薬剤部 入職
2016年3月 徳島大学病院臨床試験管理センター 特任助教
2020年4月 松山大学薬学部医療薬学科准教授(現在に至る)


既存薬に眠る新たな価値を見出す

現在取り組んでいるのは、医療ビッグデータを活用し、既存薬の新たな可能性を探る研究です。なかでも注力しているのが、すでに医療現場で実用化されている既存薬に新たな効能を見出し、別の病気の治療へ応用する「ドラッグリポジショニング」です。既存薬は効果や安全性に関する知見が蓄積されているため、新薬を一から開発するより実用化までの期間やコストを抑えられ、患者に新たな選択肢を届ける可能性があります。
具体的なテーマは、「抗がん剤誘発の末梢神経障害に対するスタチン系薬剤の予防効果」と、「バラシクロビル(ヘルペス治療薬)による抗てんかん作用の解明」です。これらの背景には、徳島大学在任時の経験があります。当時、徳島大学の石澤教授と座間味准教授が「ビッグデータとAIの活用が今後の医薬研究を変えるのではないか」と考え、薬学分野ならではの新たな研究手法を模索したことが出発点です。研究室が近かったこともあり、私も関わるようになりました。
また、愛媛大学医学部附属病院で薬剤師として勤務していた際、抗がん剤治療の副作用である末梢神経障害に苦しむ患者を目の当たりにして、薬剤師として何とか力になりたいと感じていました。さらに大学院時代には脳科学を専攻し、てんかんを研究テーマとしていた経験があり、その専門性が現在のてんかん研究へとつながっています。

プレスリリース「松大薬学部を中心とした若手研究グループががん治療の副作用軽減に新たな可能性を 発見!」より(2025年)

膨大な記録に潜む薬効を読み解く

私が活用している医療ビッグデータは、アメリカ食品医薬品局(FDA)が管理するFAERS(有害事象報告システム)です。医療関係者やメーカー、患者から寄せられた副作用報告が集積され、世界中のデータが集まっています。この膨大な情報を分析し、新たな可能性を探っています。例えば、抗がん剤の副作用として末梢神経障害が現れた患者について、同時にどのような薬を服用していたかを解析します。その患者群を、ある薬Aを服用していたグループと、していなかったグループに分け、Aを服用していた患者で神経障害が少なければ、「Aが副作用を抑えているのではないか」という仮説が生まれます。そこから基礎実験や臨床研究を重ね、真偽を確かめていきます。候補薬は数多く見つかりますが、すべてに価値があるわけではありません。偶然による結果や信頼性の低いものも含まれるため、本当に着目すべき候補を見抜くには、薬学の知識、臨床経験、研究者としての判断力が欠かせません。ビッグデータが示すのは数字や事実の集積であり、患者一人ひとりの背景までは映し出さないからです。スタチンの研究では、その限界を補うため、カルテ情報を含む臨床データを全国規模で解析しました。2016年に参加した若手研究者の勉強会で築いたネットワークをもとに、北海道から九州まで13施設が連携。2017年の構想開始から成果公表までCOVID-19の影響もあり8年を要する大規模な共同研究となり、臨床薬理振興財団研究大賞や松山大学功績賞の受賞にもつながりました。

基礎と臨床の両視点で既存薬の新用途を拓く

今後、スタチン系薬剤の研究では、さらに治験や追加研究を進め、有効性と安全性を検証したうえで、数年以内の実用化を目指しています。バラシクロビルについても、医療ビッグデータ解析から抗てんかん作用の可能性を見出し、基礎実験で効果を確認しました。現在は愛媛大学医学部、岡山理科大学獣医学部との共同研究により、網羅的な遺伝子解析を通じて作用機序の解明を進めています。
学部時代から薬理学を学んできた一方、就職先として愛媛大学医学部附属病院を選び、臨床を経験できたことは私にとって大きな財産でした。基礎実験で有効でも、人にはそのまま通用しないことがあります。逆に、臨床で見えた課題は基礎研究の新たな問いになります。両方の視点を持つことは、同じ目標に向かうための道具が増えることであり、現在の研究の大きな強みになっています。
また、研究活動に加え、成果を社会へ還元する取り組みにも力を入れています。研究倫理や統計学に関する講演、関連書籍の出版や教科書執筆にも携わっています。地域の病院・薬局との共同研究、高大連携、ラジオ番組での情報発信など、大学で生まれた〝知〞を社会へ届け、松山大学薬学部の存在価値を広く知ってもらうことも、大切な使命だと考えています。

研究のかたわら、本学OBの薬局薬剤師(P14参照)と松大生がタッグを組み、愛媛県産キウイ(K)と漢方成分(K)を取り入れたクラフトコーラ(C)の開発・販売に取り組むプロジェクト「K2C・クラフト」を進めている。

この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.229でご覧いただけます。

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