日本発祥の授業研究が拓いた文化理解から始まる教育の進化

Bruce LANDER 教授

人文学部英語英米文学科教授 博士(学術)
Bruce LANDER
ブルース ランダー

●略歴
1993年7月~1994年1月 ユースグループセンター(香港) 英語講師
1994年1~8月 キャンプ山中(山梨県山中湖村)ボーイスカウト活動指導員
1998年7月~2001年8月 広島県尾道市教育員会JETプログラム ALT
2001年9月~2002年12月 ソフィアゼミ英会話学校(岡山県久米町) 英語講師
2002年2~12月 広島県立因島高校 英語講師
2004年4月~2005年3月 布池外語専門学校 英語講師
2005年4月~2008年3月 愛媛大学英語共通教育センター 英語専任講師
2008年4月~2011年3月 松山大学人文学部 外国人特別講師
2011年4月~2016年3月 久留米大学外国語研究所外国語共通教育センター 常勤講師
2016年4月~2020年3月 松山大学人文学部 准教授
2020年4月~ 松山大学人文学部 教授(現在に至る)


日本の算数教育が導いた世界へ広がる授業研究

現在、私が主に取り組んでいるのは、「授業研究(Lesson Study)」と呼ばれる研究分野です。授業研究とは、教師同士が協働しながら授業を計画・観察・分析し、改善を重ねることで、より良い授業づくりへとつなげていく、日本で120年以上にわたって培われてきた教育実践の一つです。奈良女子大学をはじめ、日本では長年にわたり、研究と実践が積み重ねられてきました。そして1999年にアメリカで出版された『The Teaching Gap(邦訳:日本の算数・数学教育に学べ)』をきっかけに、日本の算数教育の優れた指導方法が世界的に注目されるようになり、授業研究も国際的な関心を集めるようになりました。
もともと私は英語教育を中心に研究していましたが、博士課程在籍時に指導教員から授業研究という分野を紹介されたことが、この研究と出会うきっかけとなりました。当初はそれほど強い関心を持っていたわけではありませんでしたが、このテーマに関する国際会議に参加するうちに、授業研究が世界中の教育関係者から注目を集めていることに気づきました。そして研究を続けるなかで、教育実践そのものを改善し、学習者の学びを支えるという授業研究の大きな可能性に強く惹かれていきました。日本では日常的に行われている教育実践のなかに、長い年月をかけて自然に培われてきた価値があります。そして、そのなかに世界が注目する大きな可能性があることに魅力を感じています。

日本の授業研究では、指導者たちが「計画(PLAN)→実行(DO)→評価・反省 (CHECK)→改善(ACTION)」の内容を共有しながら、このサイクルを継続的に繰り返すことで教育の質を高めていく。

教育に息づく文化が教え方をかたちづくる

日本では、授業が終わった後に教師同士で振り返りを行い、改善点や課題について意見を交わしながら、次の授業をより良いものへと磨き上げていく文化があります。一方で、授業研究が世界へと広がりを見せるなか、必ずしも同じ手法がどの国でもそのまま機能するとは限らないことも見えてきました。その理由を考えるなかで私が着目したのが、教育の背景にある文化や価値観の違いです。
例えば日本では「みんなで協力しながら成長する」という価値観が自然に共有されていますが、海外では個人の意見や主体性がより重視される社会です。日本の教育現場で大切にされている「反省」という考え方一つをとっても、授業を振り返り、次にどう改善していくかを考えるこうした感覚は、英語ではぴったり対応する言葉を見つけることが難しいのです。現在は、授業逐語録を主要な分析データとして、教師と学生・生徒の言語的コミュニケーションを詳細に分析するTBLA(Transcript-Based LessonAnalysis)という手法を用いながら、教育のなかにどのような文化や価値観が表れているのかを探り、その違いを理解しながら、それぞれの教育環境をより良くしていくための研究を進めています。

学びと教えをつなぎ実践を進化させる

現在、授業研究は日本国内にとどまらず、世界各国でその教育的価値が広く認識され、大きな広がりを見せています。私自身も世界各国の研究者や教育実践者と協働しながら研究を進めており、2024年から1年間、イギリス・ノッティンガム大学で在外研究を行いました。そこで、他の研究者や教育実践者とともに、初等数学教育の改善を目的とした大規模な授業研究プロジェクトに携わりました。その一環として、南アフリカ・ヨハネスブルグで行われた算数授業を対象に、教育のなかにどのような文化的特徴が埋め込まれているのかを分析しています。
また、2026年4月には、キルギスで開催された授業研究に関する国際シンポジウムで基調講演を行うなど、世界各地で教育研究に携わる機会にも恵まれています。現在はAIやICTといった新しい技術が教育現場に入り込み、教育環境そのものも大きく進化し続けています。教育にはそれぞれの国や地域ならではの文化が深く関わっているからこそ、世界にはまだ多くの学びの可能性が数えきれないほど残されていると感じています。こうした変化によって、授業研究という分野にも、これからさらに新しい議論や研究が生まれていくはずです。これからも世界の教育現場から学びながら、教育をより良くし、良い教員になりたいと願う人たちの支えとなる研究を続けていきたいと考えています。

2025年11月、4カ国の教育関係者が松山市立清水小学校を訪問し、授業研究を実施。 通訳兼研究者として参加したランダー先生もディスカッションに加わり、活発な意見交換が行われた。

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