クリエイティブな人材の育成に有効な組織における環境要因を明らかにする
経営学部准教授 博士(経営学)
柴田 好則 SHIBATA Yoshinori
●略歴
1982年 秋田県生まれ
2011年 神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了 博士(経営学)
2011年 松山大学経営学部講師
2013年 松山大学経営学部准教授(現在に至る)
2015~16年 ライス大学(テキサス州・ヒューストン)客員研究員
心理学を用いた人的資源管理の考察
私の研究は、組織で働く人々の心理や行動について、経営学的な観点からメカニズムを解明する「組織行動論」という経営学の一分野です。ここ数年は国内外の製造業や介護医療現場における協調行動や、新規アイデア創出に関わるクリエイティブな行動について経営学的な観点から考察しようとしています。
この研究を始めたのは、学部時代に心理学に興味をもったことがきっかけです。人間の意欲を説明するモチベーション理論の面白さを知り、「人はなぜ働くのか」という根源的な疑問に答えようとする組織行動を研究対象として選びました。
その後、国内企業の経営者や人事担当者との接触や、海外の日系企業を対象とした調査をしていくなかで、個々人の自発的・自主的な行動の重要性を感じたことも研究を継続してきた理由の一つです。
東南アジア諸国に進出している日系企業では、駐在員の多くが現地労働者の仕事のやり方に頭を悩ませていました。具体的には〝指示された仕事以外のことをやってくれない〞〝業務改善のための提案を一切してくれない〞などといった労働者の自主性に関わる事柄です。教育水準や職業訓練の仕組みがまだまだ不十分な現地では、個々の企業が積極的に人に投資をし、クリエイティブな人材を育成することが求められていました。そのような状況において、日系企業はどのような指針を用いて人的資源管理を構築していく必要があるのかにも興味がありました。
個人の資質より影響する多種多様な環境要因
古典的な組織行動の研究では、組織の人間行動を個人のパーソナリティや価値観といった心理学的な視点から解明しようとするものが主流でした。しかし現実の組織における人の心理や行動は組織の環境要因に制約を受けています。例えば、失敗を許容する寛容なリーダーのいる職場で働いている人は率先して新しいことにチャレンジしやすく、ルールやマニュアルの遵守を重んじる職場では自発的に仕事を工夫したり、業務を改善するための提案をしたりといった行動は取りにくいなどが挙げられます。
また東南アジアでは組織内に仲のいい人がいたり、認め合える上司がいたりするなどの人間関係の良さがモチベーションをアップさせる傾向が見られますが、日本では企業が従業員を公平に扱っているかどうかで左右される傾向があるなど、地域性・国民性による相違があることも見えてきました。
このように、組織における人間行動を体系的に理解するためには、個人的な要因のみならず、多種多様な要因にも目を向ける必要があるのです。
研究の主な手段は、従業員への質問票調査のデータを統計的に解析する方法と、経営者や人事担当者の方々に対するインタビューの2つです。近年では、情報管理の徹底から労働環境調査を行うことは難しくなっています。そのようななかで調査を進めるためには、何度も企業を訪問して調査の趣旨を説明し、信頼関係を築いていくことが大切になります。
従業員の行動を左右する公平性と人的つながり
これまでの研究を通してわかってきたことは、第一に「組織の公平性」が従業員の行動に大きな影響を及ぼしているということです。人事評価や報酬の仕組みが公平であると感じるメンバーは組織に安定的で長期的な関係を期待でき、職場での協調行動を選択しやすくなります。第二は「人的ネットワーク」の影響で、職場の対人的ネットワークは仕事で助け合う動機や価値を普及する効果をもたらします。
また社会情勢が大きく変化しているなか、経営者は常に対応しようとしているけれども、従業員が変化を自覚しきれていない状況にあることも伺えます。今日の社会は、よく知識・情報社会と表現されます。こうした社会で求められる人材像は、単に定型的な業務を上手にこなすのではなく、常に新しい発想で仕事に取り組めるクリエイティブな人材です。企業だけでなく働く一人ひとりが社会の変化を受け入れ、対応することが求められているのではないのかと感じています。
2015年8月から1年間、米国のヒューストンにあるライス大学で在外研究の機会をいただきました。そこで実感したのが今日のマネジメントにおけるクリエイティビティの重要さでした。今後はこれまでの研究成果を踏まえ、働く一人ひとりが仕事で有意義な成果を発揮していくための組織のモデルに関する体系的な見解を示していきたいと考えています。
柴田准教授の共著『ケーススタディ 優良・成長企業の人事戦略』(上林 憲雄・三輪 卓己編著、税務経理協会、2015年)、『人的資源管理』(上林 憲雄編著、中央経済社、2015年)