個体に遺伝子を持たせ、集団内でどんな群れを形成していくのかシミュレーションする

安田 俊一 教授

個体に遺伝子を持たせ、集団内でどんな群れを形成していくのかシミュレーションする

経済学部経済学科教授
安田 俊一 YASUDA Shunichi

●略歴
1991 年 神戸商科大学(現・兵庫県立大学)大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程 単位取得退学
1991年4月 松山大学経済学部 講師
1993年4月 松山大学経済学部 助教授
2003年4月 松山大学経済学部 教授(現在に至る)


困難な状況下における〝裏切り〞と〝協力〞関係

私の専攻は理論経済学ですが、研究としては遺伝的アルゴリズムを用いた「囚人のジレンマゲーム」のシミュレーションを行っています。行動経済学の大前提に〝人間は合理的に動く〞というのがあって、合理的に動くと殺伐とした世界になるというのが理論的に明らかにされていますが、そこまで人間は合理的に行動しない場合もあります。
「囚人のジレンマ」というゲームには、お互いが協力するとうまくいくのは明らかなのに、協力しなければ自分だけが得をという状況において、〝相手が協力している間は協力するが、協力してくれないなら協力しない〞や、最初から〝裏切られたくないので、相手を信用しない〞などの解があります。一例としてアメリカとソ連の核競争もそれでうまく説明できます。一方が核兵器の開発を進めるから、他方もそれに対抗して開発する。お互いに止めた方がいいのはわかっているけれど、自分が止めたときに相手から攻撃されたらひどい目に遭う。だから核兵器がなくならない。
しかし〝1回だけやるから、そういう解になるのであって、繰り返し行ったらどうなるのか〞などの意見が出てきて、〝最初は協力するけれど、次は裏切ったら?〞など、いろいろな戦略を考えるようになってきました。

擬人化集団を対戦させ、集団の構成変化を検証

80年代に政治学者のアクセルロッドが、囚人のジレンマゲームにおいて、どういう戦略が有効なのか、コンピュータープログラムのトーナメントを行いました。そこで連覇したのが、ずっと協力していても相手が一度裏切ったらこっちも裏切りで返す、相手が協力してくれたらこっちも協力する、という「しっぺ返し戦略」です。その後コンピューターの精緻化が進んで、無限にゲームを繰り返すと、すべての可能性が出てきてしまうのですが、私はそれも違うような気がしていて。人間の行動パターンには傾向的なものがあるように思い、20年くらい前からその検証に取り組んでいます。
コンピューター上に擬人化した個体の集団をつくり、お互いにゲームをさせて高い得点を出した個体同士をランダムに交配させます。遺伝子の進化のポイントは選択・交叉・突然変異であり、コンピューター上でそれらを行って進化させるというのが、遺伝的アルゴリズムのエッセンスです。50〜100人程度の集団に、例えば報恩(協力する)80%・報復(裏切る) 20 %というように確率を変えた答えを与え、遺伝的アルゴリズムを用いてシミュレーションすると、最初は報恩と報復の要素がバラバラですが、ゲームを続けていくと集団の構成が変化していきます。
今までの研究で、〝報恩が報復を大きく上回る〞〝しっぺ返し〞〝報復ばかりで報恩がない〞〝報恩と報復が同じくらい〞というように、ある意味4つの領域を循環しつつも、それ以外のパターンがあることもわかってきました。遺伝的アルゴリズムによる突然変異で集団が変化していく様子について、いろいろ条件を変えながら見ています。

現実社会の複雑な動きを再現して観測する面白さ

アクセルロッドがコンピューターシミュレーションを行ったのは1987年頃で、当時のコンピューターはもっと原始的なものだったので難しかったと思います。今後は〝AIが入るとどうなっていくのか〞というのもテーマにし、勉強をし始めているところです。
AIの『α碁』の開発者に話を聞いたときに、「確かにプログラミングをして、いろいろなアルゴリズムを用意したのは自分だけど、『α碁』がなぜそのアルゴリズムを選んだのかわからない」と答えていました。そういうブラックボックス的な存在であるAIが、私たちの生活に直結する金融や経済でお互いに最大利潤を上げるための、いわゆるゲームをしています。AIには遺伝的アルゴリズムが使われているはずなので、そもそも不安定な金融や経済の世界に突然変異が起こることで、その不安定の幅が非常に大きくなるのではと懸念しています。
私の研究に今のところAIは関係ありませんが、現実社会における集団の動きをコンピューター上の小さいシミュレーションのなかで説明したり、与える条件をコントロールすることで集団の動きが変わってくるところなどに面白さを感じています。今後は人口が減少していく世界のなかで、マクロ経済はどのように変異していくのかを検証していきたいと思っています。

大学院で数学をやってみたいと思い、試験勉強のため京都の古本屋で購入した参考書。なかなか手に入らない稀覯書でもあった。


この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.207でご覧いただけます。

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