中国の貿易収支やGVCの分析から国際競争力の本質を考える
経済学部経済学科准教授
小林 拓磨 KOBAYASHI Takuma
●略歴
2000 年 京都大学経済学部 卒業
2001 年 京都大学大学院経済学研究科修士課程 入学
2004 年 京都大学大学院経済学研究科修士課程 修了
2004 年 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程 入学
2016 年 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程 修了
2017 年 松山大学経済学部 講師
2018 年 松山大学経済学部准教授(現在に至る)
中国で進展している急速な産業の高度化
貿易収支やGVC(グローバル・バリューチェーン)、中間財(生産に必要な機械や設備)の現地調達という観点から、中国の国際競争力について分析しています。GVCとは、製品を市場に出す上で必要な、国境を越えた製造および調達のことをいいます。文系領域を専門として研究する自分には、製品の性能を見て技術水準を評価することはできません。しかし貿易収支やGVCを分析することで、世界各国が製造業の生産工程のどの部分を担当しているのか、国際競争力を高めているのはどこかなど、各国の製造業の技術水準を間接的に評価できます。
中国などのアジア諸国には低賃金で調達できる豊富な労働力があり、外国企業が数多く進出して様々な製品が生産されています。しかし生産工程のうちで実際にそれらの国々が担っているのは、組み立てなどの付加価値が低い部門が中心。製品の生産に必要不可欠な部品や設備といった生産財は、外国からの輸入に依存していました。これはアジア諸国で主に高い技術レベルを必要としない工程が担われていることを示唆しています。
しかし近年の中国は、国内で中間財を調達できるようになり、しかもその調達先の多くが地場企業です。これは高い付加価値を生む工程を中国が担えるようになってきたということであり、中国で産業高度化が進展していることを示しています。
経済成長率の低下と国際競争力との関係は?
中国はかつて日本より技術力が低いとみられていましたが、1997年に初めて中国を訪れた際、駅の施設や設備、車両などを見て、自分が想像していたよりもかなり進んでいたことに驚かされました。ちょうどその頃の中国は人件費の低さで諸外国から生産拠点として注目されていた時期でもあったので、なおさらです。中国は国内に入ってきた外国企業が持ち込んだ技術を模倣することから始まり、今やオリジナルの最先端技術を確立しています。実際に世界知的所有権機関がコーネル大学などと協力して発行している、世界各国の技術革新能力と実績を評価する「グローバル・イノベーション・インデックス2020」では、日本が16位、中国が14位という結果で、もはや日本を上回るほどのレベルに達しています。
しかし、これまで急激に上昇していた中国の経済成長率がここ最近低下し、再び成長率を高めるためには、生産性の向上などを目的とした技術革新が必要になっています。でも、経済成長率が落ちたということは国際競争力や技術力が低下したということなのでしょうか?
例えば身近なiPhone は様々な部品を集めて組み立てられ、最終工程は中国で行われるため「中国製」となっています。しかしiPhone本体には中国製の部品はあまり使われておらず、メイド・イン・チャイナであっても中国の技術力はあまり必要とされていません。しかし中国製のファーウェイは、日本も含む外国製の付加価値の低い部品が使用されているにも関わらず、高付加価値製品として高額で市場に流通しています。一概に経済成長率の低下と国際競争力や技術力の低下が一致しているとは言い難い状況です。
社会的背景が影響する興味深い中国経済
日本人(外国人)として中国を見ることで、他の国にはない中国の特徴が見えてきます。例えば中国には地元企業を優遇する地域保護主義があり、上海のタクシーは上海の自動車会社でつくられた車ばかりが走っているし、湖北省武漢市に行けば湖北製のタクシーばかりで、上海製のタクシーは一台も走っていません。このような現象は日本ではほとんど目にすることがなく、中国の急速な経済成長の背景として興味深いものです。他にも一党独裁で民主主義ではないのに経済成長が著しいことや、国有企業が必ずしも非効率ではないこと、知的財産権の保護が緩いのにイノベーションが活発に行われていることなども中国ならではの特徴です。
松山市に住んでいても、様々な場面で外国との繋がりを実感します。スーパーには外国産の食材がたくさん売られているし、衣服は東南アジア諸国からの輸入が増加しています。このように外国からの輸入が増えていますが、日本の企業が全面的に衰退しているかと言えば、そうではありません。中国や東南アジア諸国で活動している愛媛県の企業も数多く存在し、日本企業の国際競争力の強さを感じます。このような状況を、貿易や企業の海外進出に関する研究を通じて、さらに考察を深めたいと思っています。
2019年9月に中国を訪れたときに撮影した江蘇省南京市の南京南駅。1990年代後半に開始された高速鉄道化計画により、車両や付帯の施設全体が革新的な発展を遂げている。
この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.212でご覧いただけます。