衰退する過疎地域を再生し「持続可能な地域」へとつくり変えるプラットフォームをいかに構築するか

藤井 孝哉 講師

衰退する過疎地域を再生し「持続可能な地域」へとつくり変えるプラットフォームをいかに構築するか

経済学部経済学科講師
藤井 孝哉 FUJII Takaya
2017年3月 松山大学経済学部経済学科卒業

●略歴
2013年 岡山県立倉敷天城高等学校卒業
2017年 松山大学経済学部卒業
2017~18年 松山市立雄新中学校 常勤講師
2019~20年 愛媛県立松山北高等学校 非常勤講師
2020~22年 愛媛県立伊予農業高等学校 非常勤講師
2024年 松山大学 経済学研究科 博士課程修了 博士(経済学)
2024年 松山大学経済学部講師(現在に至る)


理論と実践で示す地域再生の方向性

都市部から過疎地域への移住や定住の動きが活発化する”田園回帰”と、特定の地域に継続的に多様な形でかかわる”関係人口”という、地域の未来を担う新たな潮流を受け、これから農村と都市の相互的な関係をどう再生・構築していくべきかという、地域再生・変革を担う主体形成を研究テーマにしています。
人口減少に伴う地域経済・産業の縮小、衰退が進むなかで、今ある生産手段を持続可能な協働の形で管理・運営し、地域内に利潤を還元することができる組織とはどのようなものなのか?という問題意識から、地域再生論は学部生時代からのテーマでした。学部の卒業論文では大洲市豊茂地区の買い物弱者問題とそこでの自治会の対応について、修士論文では愛媛県内の地域おこし協力隊の実態をまとめました。博士論文ではこれまでの自身の研究の総合として、県内各地の事例を踏まえながら地域再生を担う主体形成として「地域再生プラットフォーム」概念を提起し、その構築の論理を検討しました。今後もこのテーマが研究の中心になります。
地域再生を課題に研究を続けてきて、見えてきたのは”理論が弱いのでは?”ということでした。地方の現場に行くと、事業者や自治体職員は、地域再生は一過性のイベントや補助金で終わるものではなく、”最終的に地域として何を目指すのか?”という長期ビジョンが必要だという問題意識は持っています。しかし、どのようにビジョンを構築していけばいいのか、何を目標とすればいいのか、それらについて具体的な理論が成立していません。そういった課題に対応するべく、地域経済学者として理論と実践を示すことで、地域再生の方向性を示そうとしたことが研究のきっかけです。

地域再生の鍵となる地域プラットフォーム

地域再生は地方のどの自治体においても取り組んでいくべき課題となっています。地方から人が流出し、地域が維持できなくなるのは”都会で豊かな生活をしたい”という気持ちが根底に存在しているからです。地域を持続させるには、地域のなかに存在する農家や中小企業といった”生産を担う人”たちが生活を維持できることが前提であり、そのためには周囲との協働や連携が不可欠です。
地域内の農家や中小企業といった事業体単位の小規模な連携は、今でも各地に見ることができますが、地域全体を維持・再生するためにはその連携の領域をさらに押し広げ、生産者・労働者(=生活者)の協働を可能にする、地域としてのプラットフォーム(基盤)が必要だと考えています。2010年代を通じて全国で形成され始めたRMO※(地域運営組織)という住民組織の形態は、自治活動やスモールビジネスによる経済活動を両立させる取り組みを実践しているので、地域再生の可能性を秘めていると感じています。
地域を研究対象にするということは、経済的事象だけでなく、文化や歴史など幅広い興味関心がなければできません。愛媛県を中心にした国内外を対象に、時間をかけてその土地を歩き、研究者としての視点だけでなく、生活者や観光者の目線でも地域を見渡しながら、その地に合ったプラットフォームを成立させるための政策立案・制度設計をどうすべきか構想しています。

※RMO(Region Management Organization)…地域の暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成された組織。総務省と農林水産省がRMO形成を推進しており、自治体の支援を受けながら、地域経済やコミュニティの維持など、地域課題の解決に向けた取り組みを持続的に実践している事例が全国で見られる。

 

持続可能な地域へとつくり変える契機

地域再生は現代日本に共通する緊急の問題であり、小土地所有・小経営を維持しながら、その協働や連携による「地域再生プラットフォーム」を構築することは、地域再生と持続可能な地域へとつくり変える変革のきっかけともなりうると考えています。特に四国は良い意味で都会とのタイムラグがあります。例えば、零細な酒蔵が残っていて、地元の原料と労働力を用いながら少量生産を続けているところがあります。これは小土地所者・小経営者同士の協働や連携の可能性を秘めた例であるといえ
るでしょう。
21世紀的問題である人口減少を前提とした、持続可能な地域経済・社会の制度設計である「地域プラットフォーム」論を提示することは、地域再生に対するインパクトになると考えています。

 

日本の地域再生論にとどまらず、台湾や中国の都市と農村の地域経済社会にも関心を持っているという。地域再生プラットフォーム論と同時並行で、酒造業の調査および論文執筆も進行中だ。


この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.223でご覧いただけます。

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