現場で課題を見出しICTの力で解決を図る
情報学部情報学科教授
小林 真也 KOBAYASHI Shinya
●略歴
1985年 大阪大学工学部通信工学科 卒業
1991年 大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士後期課程 修了(工学博士)
1991年 金沢大学工学部 助手
1994年 金沢大学工学部 講師
1997年 金沢大学 助教授
1997年 金沢大学大学院自然科学研究科 助教授
1999年 愛媛大学工学部 助教授
2004年 愛媛大学工学部 教授
2006年 愛媛大学大学院理工学研究科 教授
2018年 愛媛大学南予水産研究センター 教授(兼任)
2022年 株式会社ニプロン 社外取締役(現在に至る)
2025年 愛媛大学 名誉教授
2025年 愛媛大学南予水産研究センター 客員教授(現在に至る)
2025年 松山大学情報学部 教授(現在に至る)
様々な領域の課題をICTで解決に導く
「コンピュータとネットワークで何ができるか」という分野である分散処理を専門に、論文を書いて発表して終わりというものではなく、実社会でどのように役に立つのかを意識した研究を行っています。ここ数年はICTと他の領域とを組み合わせた「ICT×〇〇」といった研究に取り組んでいて、今まで取り組んできた“〇〇”は、教育、通信、運輸、地域創生など多岐に渡っています。その中に愛媛県の水産業も入っていて、赤潮の発生観測や研究のための変色情報収集や、海水サンプル採取を支援するアプリと情報管理システムの開発など、愛媛県の水産DXに貢献する研究もあります。
愛媛県の水産業に深く関わるようになったきっかけの一つに、愛媛県農林水産研究センターの訪問がありました。研究員との会話の中で、愛媛県の行っている海水温観測では、データをリアルタイムに漁業関係者に提供することができず、観測装置から送られてくるデータを研究員がコンピュータに手入力しなければならないということを知りました。それらの課題をなんとかできないかというところから研究が始まっています。
「水産×ICT」の一環であるこの取り組みでは、宇和海海域の多深度の海水温を常時観測し、データの管理、可視化するシステムとその公開サービス提供といったシステムの構築、海水温常時観測装置の開発、観測装置からデータを収集・管理するシステムの開発などを行いました。

現場で得られたリアルな情報を活用
養殖業を営む方と漁船の上で交わした会話の中から、海水温がある温度帯域にあるときは魚病が発生しやすく、魚病に罹った魚をおとなしくさせるためには餌止めが必要ですが、焦って餌止めを中止すると一挙に魚がへい死してしまうため、0.1〜0.2℃刻みで海水温を見ているという情報を得ることができました。海水温観測装置の仕様を決める際には、この会話の中で伺った情報を参考にさせてもらっています。
0.1℃刻みで水温を把握することの重要性など、養殖の現場では当たり前のことであっても、それ以外の人は知る由もありません。また、そのような情報が文献に出ているかというと、少なくともそれまで私の人生で見た文献の中には見当たりませんでした。現場で実際に仕事をしている人と会話をしながら、疑問に思ったことや気になったことを聞いてみるという行動をしたからこそ得られた情報です。文化人類学には「エスノグラフィ」という研究手法があります。私自身、「現場に入って行動を共にし、観察することで理解を深める」というエスノグラフィの手法を意識した行動を、日頃から心がけてきました。現場でリアルな情報を得ることができ、それを活用することができたからこその成果だと強く感じています。
工学は校訓「三実」の実用を担う学問
私にとって研究は「楽しみ」であり、教えることが「仕事」という意識があります。一人でできることには限界がありますが、教え育てた人が社会で活躍するようになると、その人を通して世の中に何かをもたらすことができるのではないかと思っています。
「理工学」という言葉がありますが、理学は基本的な法則や現象を新たに発見することで人類の知見を広げる科学であり、工学は科学や技術を人の役に立つように活かすなりわいのことです。科学の最先端は人の役に立たなくても良いのですが、工学は誰も役立たせることができていない科学の知見を活かしたり、科学を使って人の役に立つ新しい方法を見つけたりすることによって、人々に何らかの製品やサービスをもたらすものです。工学に携わる者として、世の中にある「困った」に注目し、それを解決するために新しい知見を得る研究を行い、知見を活用する技術を開発する。さらに科学と技術を活かして人々の喜びを生み出す工学は、松山大学の校訓「三実」の一つである「実用」を担う実学の一つであると考えます。
これからも社会の現場、人々の営みの現場から課題を見出し、その課題の解決に取り組む姿勢、行動を続けたいと思います。

この記事は松山大学学園報「CREATION」NO.226でご覧いただけます。





